「地獄・青空・秋」
地獄の窯を開けたかのように灼熱の夏が始まり、空調の効いた室内でしか生きられない哀れな生物へとなり下がっていた。
生来私は、どうも暑さには苦手なようで、慢性的な気だるさを感じてしまう。
オーバーサイズシャツに半ズボン姿でソファーの背もたれに大きく身を背けながら、齧ればまだ味の出るアイスの棒を咥えて嘆いていた。
「食材尽きた~~……。」
炎天下の中でサンクチュアリである自宅を出ることは、それはつまり「直接的な死」を意味していた。冷房設定18度、外気温は40度近く。ヒートショックで死ぬでしょと、苦虫噛んだ顔で呟く。
今までなら気温の落ち着いた夜に近い時間で出かけていたが、流行りのウイルスだとかなんだかって事で、軒並み早じまいをするということが、早くに見切りをつけなければならない理由だった。
タクシー乗るか、と思い立ったが吉日ウキウキで玄関まで行く。
現代ではお金を出せば好きな場所に送ってくれるシステムがある。使っている人をあまり見ないからみんな知らないんだと思う。
ただ、この辺りは割と田舎だからタクシー走っているところを見たことがない。あれおかしいなどうやってタクシーに乗るんだ。
チクショウ。結局徒歩で向かうしかないじゃないか、と玄関の檀上で一人コントを繰り出していた。
太陽光が黒髪に吸収されて、脳みそが沸騰してる。ポニテにした長髪が顔に張り付き頭の先から溶けている。空からもアスファルトからも照らされて、さながら地球オーブントースターの中を歩いている様だった。
結局何とかなるか、と勢いだけで飛び出した結果、亡者となり果てたのでした。
どこまでも高く突き抜けた青空から太陽さんがこんにちはと語りかけてくる。
ホラームービーさながらの恰好しぐさで練り歩く、すぐ隣には無いはずの小川から私を呼びかける声。さっきから、なんか変な声が混ざってない?
ああ早く秋よ来い。そうすればこの幻覚ともさよならできるのに。
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