「公園・亀・リンゴ」

 我が背中の甲羅をも焦がさんとする天上からの鋭い日差しも、地底へと誘わんとする灼熱の大地の抱擁も、なんとか今回もやり過ごしせたという安堵を感じる中、この四角で区切られた世界の主となってから何十回目の夏を終えた。

 この場所にやってきた時もこんな季節だった。あれから時が過ぎる度に厚く大きくなる我が体躯が、この土地を僅かに小さくさせている。ただそれだけの事を誇らしく感じさせる季節になった。それに加え、1つだけ別の楽しみがある季節でもあった。


 のしのしと歩を進める先にあるヒトの子らの遊具。そのさらに奥に離れた所に、端に追いやられたように存在している、我が体躯と同じ色の水場の傍に1本だけ生えている木がある。そこになる、我がチャームポイントの頬に似た色をした実。これを食べることが灼熱の季節を乗り越えた後の楽しみであった。

 日ごろ草や藻やボウフラなんかを食べていた身からしたら、それはなんとも形容しがたい味をしている。未だ大地を這う事しかできないはずなのに、翼をもつ者の様に天井へと昇っていける気分にさせるのだ。

 素早く動けないもどかしさを感じながらも、大きく太陽が傾いたころには水場の近くまではやってこれた。のだが、困ったことに目的を目の前にして人の子らに囲まれているではないか。

 夜の色を背負った子と、夕の色を背負った子よ、そこをどいてはくれまいか。過去に何度か人の子らにつつかれたり追われていたりしたから慣れてはいた。しかし、いつもなら感じていたと思う不安感も、あの実を目前にしていたら湧いてはこなかった。それよりもはやくあの天にも昇る気持ちを味わいたいと考えた先、我が手足は空を掻いていた。

 ん?と現状を把握するよりも速くに緑の檻に入れられる。長い間の揺れが収まると、透明な水の中に入れらる。しばらくしてその水面に凝縮した藻の様な物や白い果実を入れられる。


 ああ、なんとも天に昇る気持ちだ。

 居心地の良さを感じ始めたころ、もうあの土地の主には戻れないと悟っていた。

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