第39話 犯罪組織!!
「さて、エリース、これからどうする?」
「どうするもこうするも‥‥、旅を続けるなら騎士団に捕まるわけにはいかないのでさっさとこの街から逃げたい、ですね。でもその前にやることがあるので。」
そういった私がちらりと診療室のベッドに寝転ぶイチイちゃんを見やって、彼女の目につけられた白い包帯を軽くなぞる。
「ああ、彼女を家に、帰さないとな。というかこの子はどこの誰なんだよ。」
「あ、イチイちゃんは、」
ブティックの店員さんの妹であることを伝えようとした時、扉の向こうからヒステリックな声が聞こえる。
「神父様っ!イチイが!イチイが!!」
その声に、私達はお互いをみつめて頷き、神父様の元へ向かった。
私達が駆けつけて見た光景は、困った顔をした神父様と‥‥、泣きながら神父様に助けを求め縋るイチイちゃんのお姉さん‥‥、『イヴォン』さんだ。
「っ。」
一瞬、息が詰まる。私はどんな顔をして彼女に会えばいいの?彼女の異変に気がつけず、真犯人によって脅迫されていた彼女を殺した私が‥‥。
っ!!違う。この世界は、この世界は違うんだ!!前の世界じゃない!!
イチイちゃんは死んでいない。私は彼女を殺していない。
「イヴォン、さん。」
「っ!!あなたはイチイの!!ねえ!?イチイがどこにいるか知らない!?ねえ!?」
髪の毛がぼさぼさで表情も険しい。着ている長袖のワンピースも走ったからか、皺が寄って、破茶滅茶だ。前回見たときとは大違いな気迫に私は思わず俯いた。でも、大丈夫。大丈夫、なんだ‥‥。
深呼吸をして、私は彼女に話しかける。
「あの‥‥、イチイちゃんは、この先にある治療室で寝ています。」
「嘘‥‥。よ、よか、った‥‥。」
妹の安全が分かって気が抜けたのか、ふらりと倒れ込みそうだったのをヴァンがそっと抱きかかえた。
「大丈夫か?」
「え、ええ。ありがと‥‥。qうぇrちゅいおp@!?」
「あー、まあ、ちょっと向こうで話そうか。」
あー、そう言えばイヴォンさんって‥‥、ブティックのお姉さんだから‥‥、つまり‥‥、そういうことだね!うん!!
*******
診療室の前でついに我慢できなくなったらしい。
「お、王子様♡お会いしたかったです!!」
「あー、うん。お、俺も?」
「結婚なさる気は?」
「あ、あはは‥‥。」
「‥‥。」
ヴァンに抱きつくイヴォンさんの姿にちょっと引いている。
い、いやだってさ、前の世界では血色悪い顔でそれでもいなくなった妹のために祈り続けるというすごい、さ、ほら、清廉な人のイメージなのに、今のイヴォンさんさ、あれじゃん?なんか‥‥、ヴァンの追っかけみたいな感じで俗っぽくて‥‥、いいんだよ?いいんだけどなんかギャップが‥‥。
時間が巻き戻る前との感覚の差にため息をつく。こういう人物像の差にも慣れなきゃ。
溜息をついている間にもヴァンはイヴォンさんの肩と首の間ら辺を掴んで、少し押しのけるような格好をとるが、彼女はそれにも構わずタックルするようにヴァンにひっついて‥‥。
っと、ぼーっと見ている場合じゃなかった。私は静かに診療室の扉を開けた。
「あの、イチイちゃんのこと、ですけれども‥‥、説明いいですか?」
「っ!!‥‥はい。何が起こったのでしょうか?」
「えっと‥‥。」
中に入ると居住まいを正したイヴォンさんは、イチイちゃんの姿に息を呑んで問いた。そりゃ、妹の片目に包帯が巻かれていればそうなるだろう。でも、何が起こったのか、そう言われても難しい。『
でも、こういうことを話すのが筋っていうやつだろう。そう思った私は口を開こうとしたが、それをヴァンは手で封じた。
「すまない。詳しいことは言えないが端的に言うと彼女の左目はもう返ってこない。」
「っ!?」
「それは‥‥、《モルフォ》が関わっている可能性があるからだ。」
も、モルフォ‥‥?なんだろう?関わっている?って国の組織かなんかかな?
聞き覚えのない名前に私は困惑するだけだった。しかしイヴォンさんは違ったらしく、顔を青ざめて目を剥いていた。
「な、なんて恐ろしい‥‥。どうしてこんなに可憐な妹が、あんな集団に巻き込まれるの‥‥。」
気を失ってしまいそうな彼女の様子を尻目に私はこっそりヴァンの裾を引っ張った。
「ん?どした?ちびっ子。」
「あの‥‥、《モルフォ》ってなんなんですか?」
「あー、知らないのか‥‥。」
ヴァンが私の事情を察して口を開こうとしたが、口をつぐみ、その唇を釣り上げた。その
「よちよち〜。わからないんでちゅね〜。おチビちゃん〜。かわいいでちゅね〜?」
「‥‥ウザいです。」
「ぷぷぷ。この俺に隙を与えるのがいけないんだよ。じゅっちゃいのおチビちゃん?」
「くっ‥‥。この‥‥。」
腹たたしいけど、一応正論ではあるからよりウザさが際立つ‥‥。何よりもヴァンの浮かべるその嘲笑うような表情がはっ倒したくなってしまう‥‥。
「っと、こんなことをしている場合じゃなかったな。」
「急に正気に戻らないでください。情緒不安定すぎてキモいです。」
「おお?言ったな?言ったな?言っちゃいけないことを言っちゃったな!?ちびっ子ぉ!」
と小声での会話が罵声に変わってぎゃーぎゃーやっているうちに、イヴォンさんがすっと手を挙げる。
「あの‥‥、なんで、《モルフォ》が関わっていると?」
その言葉にヴァンは頷く。
「おお。そうだったな。まず、《モルフォ》とはというところからだったな。《モルフォ》っていうのは集団犯罪組織だ。」
「へえ‥‥、犯罪組織、ですか‥‥。」
犯罪組織なんてたくさんありすぎて覚えていないな‥‥。片っ端から駆除してきたし、どれがどれだかさっぱりだから《モルフォ》だなんて言われてもわからないな‥‥。
「怖いですよね‥‥。最近は、特に活動が活発で‥‥。」
「ああ、げに恐ろしい組織なんだよなぁ。」
声を震わせるイヴォンさんにヴァンがしっかりと頷く。
「ふ〜ん。どんな活動をされている組織なんですか?」
「‥‥それが、悪魔みたいなことをするんだよ。犯罪をしたい人に力を与えるそうだ。その犯罪が可能になる、な。ただそれだけなんだが、与える力が強すぎてな。今、かなり話題なんだぞ。未だに実行した犯人しか捕まっていないのでも有名だな。力を与えている犯人の一人も捕まらないなんて手慣れているしな。」
『人に力を与える』‥‥?そんなのは初めて聞いた。強盗・誘拐・殺人なら頻繁にあったけど、そんな間接的な関わり方は初めて聞いた。
しかも、末端の人間‥‥、それも組織ではない人間しか捕まらないなんて‥‥。
「なんでも、その犯人の周りには『青い蝶』が残されているらしい。‥‥まるで自分たちの痕跡を誇るようにな。それで、いつの間にか、《
真剣な顔をしたヴァンが、不安そうなイヴォンさんを自然にエスコートして、置かれていた壁際の椅子に座らせた。
「‥‥先程、この子に危害を加えたやつをとっ捕まえたんだがな‥‥、危ないもんが入っていないか少し身体をまさぐらせてもらった。」
その言葉に思わず「えっ」と驚愕を表してしまった。
「ヴァンって、意識のない相手にそーゆーことするのが趣味なんですか‥‥?」
「キャッ!」
「ちげーし!!勘違いすんな!!ていうか、あんたなんで『キャッ』って言ったんだ!?」
頬を膨らませたヴァンをまあまあと宥めると、「ちびっ子が変なことを言い出したからだからな」と、目を三角にしながらヴァンはズボンのポケットに左手を突っ込み、あるものを出した。。
「これだ。」
「っ!!」
「それって‥‥、『青い蝶』のネックレス?」
それは銀の鎖に青い蝶を象ったペンダントトップが付いている、可憐なネックレスだった。しかし、その青い蝶の部分にわずかな
現にそれを見てしまって青ざめるイヴォンさんの肩を右手で優しく支えるヴァンが頷く。
「そうだ。これが俺がこの件に関して《モルフォ》が関わっていると思っている証拠だ。なんでこの子がそういうことに巻き込まれたかは分からんがな。」
「っ!」
つまり‥‥、ディザイアは、《モルフォ》側の人間だったってこと!?
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