第38話 馬鹿野郎!!
「‥‥容態は、安定しています。」
不審げに私達を見ていたこの教会の年若い神父様の声に安心する。ディーさん、いやディザイアを『処分した』と言って合流したヴァンと共に街の教会に来た。幸運なことにイチイちゃんを聖女様に治療していただいたため、治療費はかからずもう家に帰っても大丈夫らしい。
診察の終了間際、神父様が急患で出ていかれてしまい、私達は二人っきりになった。
「よかった、です‥‥。」
「そうだな、ちびっ子。」
「‥‥撫でないでください。」
私のつけているフードをがしがし撫でて揺らす、ヴァンの頭にもフードが深く被られていた。
一応私は手配書が配られている身だし、ヴァンもヴァンで騎士団から追われている。しかもディザイアが私達の手で闇に葬られているため、騎士団が総出で探している。
そんなときに堂々と姿を表すのは普通のバカ野郎だ。と、言うわけで深くフードを被っている必要が出ている。
まあ、そのお陰ですごく不審者扱いされているわけなんですけどね!
「さて、そろそろ私は行きます。」
「『行きます』‥‥?どこにだ?」
「どこって‥‥、騎士団のところですよ。」
座っていた椅子から立ち上がってフードを頭から外し、『当たり前』のことを言うと何故かヴァンは驚いた目で私を見た。
「なんで、だ。‥‥俺のことが、嫌いになったのか?」
「‥‥あはは。何を言っているんですか。亜人なんてみんな嫌いに決まっていますよ。」
「‥‥違う、だろ。お前の言いたいことは、そういうことじゃないだろ。」
「‥‥。」
私の言いたいこと。その言葉に私は乾いた笑いをもらした。
「じゃあ、ヴァンに私はなんて言えばいいんですか。『あなたのこと、告発しましたけどまたあなたは私を信頼して一緒に旅をしますよね?よろしくお願いします』って言えばいいんですか!?」
「それは‥‥。」
「ははっ!どんなに滑稽なことですか!誰が信用するんですか?ああ、お人好しなあなたなら信用してくれるかもしれませんね!『また裏切りますけど』!!」
「‥‥ちびっ子。お前‥‥。」
「そのぐらいなら、家に帰ります。」
「‥‥。」
神妙な顔をするヴァン。
だけれども、その裏であなたは何を考えているのでしょうね?
裏切るかもしれないから清々したという開放感?
それとも、そうさせた何かがあるはずだという的はずれな正義感?
まあ、ヴァンがどう考えても私に残るのは裏切り者のレッテルだけだ。もうヴァンの側に前と同じようにはいられないだろう。
分かっている。だから、こうやって笑ってヴァンに話しているのでしょ?私。
「復讐、するっていったじゃないか‥‥。」
「確かにそれは心残りです。でも、今生の勇者が前世の勇者同様に村を滅ぼすとは考えづらいです。貴方が言ったように。この世界は前の世界と違う、から。」
違うんだ。何もかも、違うんだ。そう、そうなんだ。
勇者なんて存在しなくて、平和で、亜人だって人族だっておんなじだって。
私は、異端なんだ。
聖女様は分かってくれるかもしれない。
でも、それ以外はどうなの?
私が必死に守ろうとした人たちは私を白い目で見ることだろう。私が、亜人を差別するから。
「それなら、それならば‥‥。私は神父様に殺されるとしても、家に帰りましょう。もちろんあなたの疑いは晴らして差し上げましょう。これが私にできる唯一の餞別ですかね。」
「お前は、本当に、それでいいのか?」
「いいに、決まっているじゃないですか。他でもない私が言っているんですよ。」
「だって、お前、泣いて‥‥。」
「泣いてないっ!!」
泣いてない。泣いてなんか、ない!!私は惨めな亜人と行動を共にしたくない。ヴァンなんかと一緒にいたくない。復讐なんて、したってどうしようもない‥‥。‥‥ヴァンに、迷惑をかけたくない。私がいることでこの世界の人に悪影響になるかもすれない。死ぬべきだ。いや、死ななきゃいけない。
どうしてこんなにぐちゃぐちゃなの?こんがらがって、絡まって。でも、私が害悪なのはもう、わかりきったことで、ヴァンにひどいことをしてしまって。
だから、一緒に旅をしようだなんて、言えなくて。
「さようなら。」
しか、言えなくて。
「ちびっ子。」
「っ!?」
パンッという、乾いた音がなった。私の頬から。最初は何がなんだかわからなかった。それでもだんだん熱くなっていき、水滴が通るたびにじんじんとしみていく頬にようやく私は何が起こったか分かった。
「なんで、頬を叩いたんですか。ゔぁ__。」
「お前らは!!お前らは嘘しかつかない!!いつもそうだ!俺は何度も何度も何度もお前らのことが嫌いになった。嫌いなんだ!ちくしょー!もう関わってやるもんか!!って何度も思う。今回だってそうだ!俺は死にかけたんだぞ!?ふざけんな!もう少し弁護したっていいだろ!?ど畜生!ふざけんなよマジで!!嫌いなんだ!お前らのこと、嫌いなんだよ‥‥。お前らはいつも笑って俺を騙す!!お前らは俺のことを憎む。でもって最終的には俺のことを置いて行くんだ!でも、それでも俺はお前を救いたい!傲慢かもしれない、それでもお前らに長生きしてほしいんだよ!楽しく過ごして欲しい。だってお前はまだ子供だぞ!?中身が17歳?まだまだ子供だよ!ぼけ!!子供らしく楽しく過ごして、楽しく学んで、俺が老いたときにな、一緒にいてくれてよかったっていってほしいんだ!そのときに、俺はようやく言えるんだ!俺は幸せだったって!母様が産んでくださってよかったって!ああああああ!!!俺は何を言っているんだよ!俺も俺のことが嫌いだ!!狐族であることが嫌いだ!!軟弱なこの身が嫌いだ!!お前らに何度騙されたってお前らのことが大好きなお人好しな自分がだいっきらいだ!!!馬鹿野郎!!だからな!!ちびっ子!!!」
「‥‥。」
なんで、ヴァンがそんな泣きそうな顔、しているん、ですか‥‥。
「つまり!!お前のこと、だいっきらいってことだ!マイナスだ!だから、もう‥‥、恐れるな。俺に嫌われることを。恐れずに傷ついたっていいじゃんか。だからぶつけろよ!!本当に自分がしたいことを!」
私の、したいこと。その言葉に言葉が出てこない。でも、分かる。理解る。自分の奥から出てくる。
前に、想ったじゃないか。自分のしたいことを。神様と話して、私は願ったじゃないか。
「‥‥‥‥‥‥です。」
「‥‥もっと腹から声を出せ。」
「‥‥‥‥‥をしていです。」
「もっとだ!!」
ああ!!!もう!!!!!
「あなたと!!旅を!!したいんです!!!!!」
「うるせー。」
「はあ?」
笑ったかと思うと、そんなことを言い出して私はヴァンを睨んだ。そんな私が被っているフードを取り除き、私の銀色の髪を撫でた。
「だけど、いい声だったぜ。俺の心臓にもどんと来た。いいぜ、一緒に、旅をしよう。」
「え‥‥。」
「別に手配書があったって、冤罪?かけられてもいいじゃないか。旅を、しよう。」
「冤罪じゃないです。元はと言えばあなたが半ば強制的に連れてきたからじゃないですかっ!」
「ああ?そうだっけな?」
「そうですよ!ごまかさないでください!」
「そうだったかな。ま、どうせお前に一回ぐらい裏切られるだろうなって思ってたからな。そんなに気にすんなって。」
「‥‥。」
「あ?なんだよ。ちびっ子。」
「‥‥あり、がと。」
そう言って私達は顔を突き合わせ、やがてどちらかともなく、笑った。
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