〈閑話〉某聖女の恍惚

満月の夜が明ける。


日が登り始めても依然として暗闇であるその場所で、エリースと別れたその少女はひとりうっそりと笑っていた。


「ああ、なんて愚かで愛らしい少女なのでしょう!!仲間であったというだけで疑わないなんてなんて純粋なの!」


嘲笑か。それとも純粋に感動した笑みか。いずれにせよ彼女は笑っていた。


「あなたに施した『情け』がどう移ろうのか、楽しみですわ。」


幼い少女はその笑みを年相応なものから年老いた老婆のように静かに、だけれども激しい感情を内面に秘めた。


「あの方が大事になさっているヒトなので、手荒にはしたくはなかったのですが‥‥。色々とイレギュラーなことが起こって予定調和にいかなそうですわね♪」


彼女の笑みは深く、より深くなる。


「まあ、おかしなことですわ。私には『情け』なんてかけるつもりはございませんのに。あの方以外、皆、皆死んじゃえばいいのに!!」


くすくすと笑う、聖女とエリースに呼ばれた少女は歌うように言葉を刻んだ後、少し立ち止まったかと思うと先程イチイと呼ばれた少女を治癒するときと同じように祈る姿勢をした。しかし、これには深い愛情と、狂った信仰が隠れ見えるような目をした。うっとりとした目だ。


「ああ、御覧ください。私の救世主!!今宵から、私達のフィナーレが奏でられるのですわ。貴方様にとっても私にとっても待ち望んだ瞬間ですわ‥‥。ああ、貴方様のためならばなんでもできる、この言葉をようやくこれで証明されますの。」


恍惚したような声にたまたま近くにいた動物たちは恐れて散らばっていった。逃げ出そうと動物たちがならす、がさごそという草が擦れる音が全く彼女には聞こえていないのか、白い肌に浮かべた赤らめた頬を冷やすかのようにその小さな手の甲を当てた。


「だから、お願い‥‥。あなたの望みが叶った暁には‥‥。あなたの墓にほんの少しだけ私の骨を入れさせて‥‥。」


消え入るようなその声は風でかき消された。



薄れゆく月はただそれを眺めるだけだ。

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