第40話 茫然自失!!

つまり‥‥、ディザイアは、《モルフォ》側の人間だったってこと!?





かなりショックだが、騎士の裏切りは割とよくあることだ。騎士はよく犯罪組織と手を組む。なぜなら、彼らは装備品などにお金がかかりすぎる。なにより、見栄を張るのだ。競って高いものを買おうとすることだってある。そのお金に困ったときに犯罪組織に協力することでお金を得るケースは多かった。


でも、ディザイアがそうなってしまったのは‥‥、バディを組んだこともある騎士がそうなってしまうことはなかったため、悲しい。


しかし、こんな感傷に浸っている暇はない。早くディーさんと繋がっていた《モルフォ》の人間を捕まえなければならないからだ。


「騎士様は無理でも、教会の人に‥‥!」

「それは、後回しでいい。‥‥自称17歳お前なら分かるんじゃねーのか?俺がなんでわざわざこんなところで言っているのか。」

「は‥‥?何言っているんですか?」


わざわざこんなところで言う、理由‥‥?私は立ったまま呆然としてしまう。どういうこと‥‥?なんでこんなところでって、そんなのこんな大事な話はさっさと済ませておいたほうがいい、から、じゃ‥‥。


‥‥待って。


確かにこの情報はさっさと共有するべきだ。でも、あまり関係のない第三者に漏らすべきでもない。そう、んだ。イチイちゃんのことは最悪でまかせをいっても信じてもらえるだろう。


__じゃあ、なんでイヴァンさんがいる手前でヴァンは《モルフォ》の話をしているのか?‥‥答えは簡単だ。


はっと顔を上げた私にヴァンはイヴォンさんににやりと笑った。


「なあ、その首にかけているこれと同じネックレス、外してもらってもいいか?」

「どういうこと、ですか?」


微笑みながら首を傾げる彼女は言語外に『NO』を突きつける。


「分かっているんだ。さっき、首元を確認した。ネックレスらしいものがあった。俺は耳がいいから、金属音の違いだって分かる。あなたがつけているものと同じ音がこのネックレスからするんだ。」

「‥‥少し、何を言っているか分かりません。少し席を外してもよろしいですか?」

「‥‥なら、そのネックレス、見せてくれるか?」

「あはは!王子様?私のネックレスに婚約指輪でもつけてくれるんですか?」


『王子様』だなんて言っているが、その口調にあるのはもはや皮肉げな言葉だけだった。彼女が立って逃げようとするのを、ヴァンが彼女の肩に力を込めることで阻止しているが、こんなやり取りがずっと続くとは思えない。じゃあ、どうするか。答えは一つだ。


__私がそのネックレスを盗ることだ。


彼女の首に引っかかっているその銀の鎖を軽く引っ張る。そこから出てきたペンダントトップを握って離さない。イヴァンさんが抵抗して暴れるが関係ない。


「っやめて!」

「よくやった!ちびっ子!」


でも、その、ペンダントトップは‥‥。


「紅い‥‥、花。」

「だから言ったでしょう?何を言っているか分からないって。」


赤い花だった。下を俯く、見たことのない花だった。


その様子にクスリと手を口に当てながら嘲笑ったイヴァンさんは、呆然とする私の手からそのネックレスを奪い取った。


「それで?ご要件は他にありませんか?ないなら帰らせていただきますが。」

「‥‥。」


証拠がないからヴァンも手荒にはできない。だって彼女はたまたまネックレスをつけていただけの、なんの罪のない人だったのだから。何も、できない。


でも、彼女が犯人じゃないことにほんの少し安堵感を覚えた。前の時間帯のことを思い出してしまうからだ。だから、こうやって見送れて、よかったのかもしれない。


‥‥でも、本当にこのままで真犯人が分かるのだろうか?


「それでは。さような、」

「待て。」

「まだなにか?王子様?」


いつもはその呼び名にうんざりした顔をするヴァンだったが、今回ばかりはなぜか笑った。


「‥‥お姫様よお。油断したな。」

「どういうことですか?」

「それは自分の手首に聞いてみな?」


こういうときは『胸』じゃないのか、と怪訝に思ったが、イヴァンさんは違ったらしく、はっとした顔をして自分の手首をまじまじと見た。


「まさかっ!あなた、いつの間に!?」

「はんっ。昔の手癖でな。拝借したぜ?」


ヴァンの手に握られていたのは、今度こそディーさんが持っていたという青い蝶と似通っているネックレスだった。どうやら、あの赤い花のネックレスはプラフで、本物は念の為に手首に巻いていたのだ。


絶句したイヴァンさんが取った行動は、この教会を出ることだったらしい。


彼女は急いでヴァンを振り払って、教会の出入り口に向かって走り出した。


「おい!ちびっ子!いけ!!」

「‥‥。」


でも、私には、彼女を追いかけるなんて出来なかった。もしかしたら本当に彼女は《モルフォ》とやらと関係のないかもしれないだなんて、ありもしない妄想に縋ってしまうのだ。


‥‥だって、だって。時間が巻き戻る前を思い出してしまうのだ。またイヴォンさんは冤罪かもしれない。そう考えていると、文字通り手も足も出なかった。


情けない。勇者と旅をしていた頃の私はどこに置いてきたの?


それに、何故だろう。あのネックレスを見ると、変に頭痛がする。なんで、なんで、なんで私は‥‥。


「おい!ちびっ子!?ッチ。」


木偶の坊となった私に舌打ちを鋭くしたヴァンは一人で出ていってしまう。



ただ私に出来たことは、うずくまることだけだった。


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