第34話 冷酷非道!!

「ば、『バイバイ』ってどういう意味なんですか‥‥?」

「そのとおりの意味ですよ?この魔女と永遠のお別れをするんですよ。エリースちゃん?」

「は、ははっ‥‥!ち、違いますよね‥‥!?な、なんでそんなことを‥‥。」



頬を引きつらせてその言葉を笑っても自分の中で答えは出ていた。


でも、出した答えが自分でも信じられなくて、混乱して、否定したかった。



「あ、あなたは‥‥。今から何をしようって、いうんですか‥‥。」

「やっぱり、物語では『悪い魔女を殺して二人で仲良く暮らしていく』、そういうのが鉄板ですよね?」

「なっ‥‥!?」


イチイちゃんを、本当に殺す気‥‥!?短時間でも一緒にいて、楽しく話していた、よね‥‥!ディーさん!?


「そう、これは愛のためなら許されるんです。魔女を殺すなら火炙りでしょうか?そう何代か前の巫子さまの世界でそういうことを行っていたことがあったらしいですよ?」

「火炙り‥‥!?」


どこかで聞いたような『愛』を聞いて、思わずイチイちゃんを見る。すると、苦しげな彼女がそれを聞いていて泣きそうな顔をした。そして、意を決めたかのように私としっかりと目を合わせた彼女は、


「‥‥‥っ!!‥‥‥ぁ!?」


イチイちゃんが私の方を見て、必死になんとか声を出そうとしていた。掠れてよく聞こえなかったが、ディーさんに見えないように、彼女の小さな手が指さしていたある方向を見て私は絶句した。



__今の私の体格なら通れそうなちっちゃな窓ガラスがあったのだ。


まさか、イチイちゃんを見捨てて、私だけ逃げろっていうの?


私が首を横に振ると、彼女は困ったように笑った。こんな状況なのに彼女の瞳はまだキラキラしている。『絶対に負けない』っていうように。


‥‥なんで?殺されちゃうかもしれないんだよ?なんで彼女はこんな危機的状況でも笑っていられるの?輝いていられるの?



「エリースちゃん?なんでまた魔女の方を見ているんですかあああああああっっっっ!?」

「っ!?み、見ていません!?」

「見ていた!!エリースちゃんは見ていた!!見ていた!!なのに嘘をつくなんてえええええええええっ!!イチイッ!!お前のせいで穢されていく!!だけの!!だけのお友達がぁっ!!あんな魔女に穢されていくぅぅぅぅっっっ!!!許さない許さない許さないっっっっ!!!お前は四肢を引きちぎって、五臓六腑をぐちゃぐちゃにしてから殺してやるぅぅぅぅぅっっっ!!!」

「や、止めてください!!わ、私は、ええっと、ディーさんしか、見ていません!!」


ディーさんの狂いっぷりに私は焦る。イチイちゃんが今すぐにでも消されてしまうのではないのか、と。


とりあえず、ディーさんの様子を見るに彼は何故か私に執着しているようだ。だから、私に意識を向けさせてイチイちゃんへの意識を逸らせば‥‥。


「エリースちゃんッ!!」


よかった。成功したようだ。ディーさんが私しか見ていない。完全にイチイちゃんのことを忘れているようだ。


そんな彼に愛想笑いをしながら、困惑する。


一体何が起きているっていうの‥‥?

彼は私に何故こんなにも執着しているの‥‥?


しかも『私』って言った?ディーさんが?女性と遊ぶことが好きなディザイアが‥‥?『俺』じゃなくて『私』って?



訳がわからないことが多すぎる。



いきなり抱きついてくるディーさんを宥めながら、考えてみるが‥‥。駄目だ。まだ判断材料が少なすぎる。



「ああ、エリースちゃん。あなただけが私の『おともだち』です。私の悲願。私だけのもの。私の同胞ぅっ‥‥!!」

「『おともだち』、ですか‥‥?」

「はいっ!!母が言っていたのです!!恋は裏切るけど『家族愛』と『真の友情』だけは裏切らないって!!もう家族はいないので、私が信じられるのは『真の友情』だけなんです!!でも、私は少し異端で‥‥、誰も理解してくれなかった!!皆本当のことを知ったら私の元を去っていった!!でも、あなたは違う!!あなただけは私を理解できるっ!!そうでしょう!?」

「‥‥な、なんでですか?」


言っている意味が‥‥、よくわからない。『真の友情』下りは、まあ理解できないこともないけど‥‥、私がディーさんを本当の意味で理解できると思ったのは何故?


「あなたの魔力。」

「っ!?」

「あなたの魔力さえあれば、この国滅びそうですね!ね?」

「あ、あなた‥‥、本当に、騎士、なんですか‥‥?」


晴れやかな笑顔を見せるディーさんに私の笑顔は歪みそうになった。


騎士が相手の魔術量を測る程の魔術の腕を持っているはずがない。これがこの世界の常識だ。だって、それだけの腕があるならば、大抵は魔術師になる。それが私の常識‥‥、なのだが‥‥。その常識がまたおかしいっていうの?


いや、そう決めつけるのは早計だ。私は警戒しながら次の言葉を紡いだ。


「何者なんですか?」

「内緒、です。こういうのはもっと相手のことを知ってから、ですよ?でも、本当にあなたを見たときには、運命を感じました。その緑の目のあなたに。」


ふふっ、といつもどおり微笑む彼に自分の常識が変わっていなさそうなことに安堵しつつ、今までで一番気味が悪く感じた。なんで私の緑の目が特別となり得るのだろう。


ふと時間が巻き戻る前のあの『連続誘拐殺人事件』のことが頭をよぎるが、頭を振った。まさか、あの『ディザイア』がするはずない。もし、『ディザイア』が犯人だったら私は‥‥。


そう考え込んでいるのが気に食わなかったのか、ディーさんは私に繋がる鎖をぐいっと引っ張った。


「はあ、暇ですし、まずは魔女の足から、しちゃいますかね‥‥。」

「っ!!止めてください!!これはしてはいけないことなんですよ!?」

「だってこいつはエリースちゃんを誘惑した悪い魔女ですから!だからしょうがないんです。」

「‥‥!!」


意味のわからない言い分にイチイちゃんが少しビクリとしつつもそれでも尚、気丈にディーさんを睨んだ。



「はあ、これも『愛』のため、なので我慢してください。」



待って、待って、待ってよ。剣を抜かないで、イチイちゃんに触れないで!!


これじゃあ、また時間が巻き戻る前とおんなじようにイチイちゃんが殺されちゃう!ぐちゃぐちゃになっちゃう。





__『なのに、なんで、なんであの子が‥‥!!あんな目にっ!!』


時間が巻き戻る前のあのイヴォンさんの声が再び聞こえる。




もう、イヴォンさんに、悲しませたくないっ!!


友だちといってくれたイチイちゃんに酷いことをしてほしくないっ!!



私は意を決して、ディーさんに叫ぶ。



「ディ、ディーさん!!わ、私がイチイちゃんを見たのが悪いんです!!」

「エリースちゃん?」

「だ、だから私を罰して‥‥!!!」


不思議そうに私の叫びを聞いていたディーさんが優しく私に笑う。


「優しい、ですね。エリースちゃんは。」

「なら!!」


これで、やっと‥‥!!


「でも、駄目です。母と同じ緑の目をしていいのは私の友達だけです。ソレ以外はいらない。それにもし、エリースちゃんに気が付かず、こいつを『おともだち』にしようとしていた自分に腹が立つんです。八つ当たりも含んで申し訳ないですが、死んでもらいます。予備にはなりそうですが、生憎『おともだち』に呼びは必要ないもんで。まあ、綺麗な緑の目をしていますし、エリースちゃんがいなくなったら『おともだち』にしてもいいですがね。」

「っ!!」


駄目、だった‥‥。


落胆しつつも、私は聞き覚えのあるワードが引っかかった。


『緑の目』『おともだち』『愛のため』‥‥。


‥‥っ!?



「あ‥‥。」



すべてが、繋がったような気がする。



時間が巻き戻る前はきっと私とディザイアが出会う前にディザイアがイチイちゃんをなぜかは知らないが『おともだち』認定したんだ。


そして、きっとイチイちゃんが『おともだち』ではないと気がついたか、『おともだちと』して遊んでいた結果かは知らないが、イチイちゃんを殺した。


そして、次の緑の目の『おともだち』を見つけては殺した、というところ‥‥、なの。


今思いついたのは本当に適当で証拠も何もない、なのにやりかねないと思うのは私だけ?



つまり、時間が巻き戻る前の私は殺人犯と一緒に犯人探しをしていたっていうの!?


本当に‥‥、ディザイアが?


その事実に気が狂いそうになる。‥‥いや、まだが犯人であるという確証は得られていない。‥‥まだ。



「エリースちゃんんんんんん!!!どうか、しましたか?」

「ヒッ!!い、いえ‥、なんでもないです!!」

「それでは天罰を与えちゃいますねっ!」

「‥‥っ!!」




穏やかに微笑んでいても、その目は怖かった。



でも、私はイチイちゃんを守らなきゃ!!


魔術を使えば‥‥!!イチイちゃんだけでも助かるかもしれない!!


最悪魔力暴走が起こって死んでも、私には悔いがない!



慣れている魔術を口にする。


「〈ライト・ガン〉!!」


‥‥‥あれ?



「どうかしましたか?」



何も起こらない?どういうこと!?ねえ!!なんで魔術が!?



お願いっ!!お願いっ!!




「っ!!」



『お前の危機度によるんじゃないのかと思う。』


ヴァンの声が頭に響く。そうだ。私の今の状態はまだ安全で、危険じゃない。


発動、でき、ないっ‥‥!!


__あ、だめだ。くらくらする。


魔力暴走だ。


耐性がついたのか、気はまだ失わないけど頭がガンガン痛くて冷や汗が出てくる。



「エリースちゃん?」

「ち、近寄らないで!」

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