第33話 事件前夜!!後篇
__
私は門を出て、そして誰かを待っていたかのようなイヴォンさんに出会った。
「エリースさん。先程ぶりですね。」
「‥‥」
「怖い顔されてどうしたんですか?」
「‥‥」
「‥‥ふふっ。既に私のこと、気がついているみたいですね。そう、私がエリースさんの探していた事件の犯人だって!!ふふ‥‥!!」
「なんで、そんな酷いことしたんですか!」
「酷いこと、ね‥‥。」
「‥‥なんですか。」
微かに微笑んだ彼女は聞こえるか聞こえないかぐらいの声量で私に問うた。
「もしこれが愛だと言ったら?」
「なにを言ってるんです?」
「まあそう思いますよね‥‥。」
「もういいです。死んでください、‥‥あなたのことは、嫌いじゃなかったのに。申し訳ありませんが苦しんで死んでください。」
「‥‥そう、ですか。『嫌いじゃない』なんて光栄です。でもね、私はまだ死ねないのです。」
困った顔を白々しくした彼女は着ていたローブの懐に手を突っ込んで刃物を取り出した。そして、胸元にあるネックレスを軽く弾き、私に目を向けた。
でもその様子は先程の大人しさとは打って変わって、別の、そう、まるで猛獣のような様子であった。
「エリースゥ‥‥‥!!ミュゲ村のエリース‥‥‥!!」
「っ!?」
いきなりの殺気に私はうろたえてしまう。なにが彼女を変えたの?
「あんたを殺してやるっ‥‥‥!!あんたを殺せばっ!!」
「‥‥‥?」
「殺すうううううううううううううっっっっっ!!!」
なにかを言いかけた彼女は途中でやめて、手元に持つ刃物で私に襲いかかった。
刃物は調理用なのだろうか?すごく切れ味が良さそうだった。
そのぐらい詳細を見れるほど私には余裕があった。
大丈夫だ。亜人を殺すようにいつもどおりにしたら殺せる。殺、せる‥‥。
『エリースさん。』
彼女の優しい声が脳内で何度も何度も何度も繰り返されるのは、きっと、気の所為だ。
「死んでください。イヴォンさん。人族のために。‥‥〈ポイズン・ウィーク〉。」
「なんですか?これ、いや、いや、やあああああああああああああっっっ!!!痛いいいいいいいいいいいいいいいいいいいっっっ!!!」
「これが被害者の、あなたの妹さんの苦しみです!!これが、自業自得なんですっ!!」
私が放った毒魔術に苦しむ彼女の様子に、何故だか動悸が激しくなる。
私が魔術を放ったとき、気を散らしすぎたのか軌道は彼女から逸れたように感じた。失敗したかと思ったのに、彼女に魔術が当たっているなんて‥‥。そんなこと‥‥?ある?まぐれ?そんなはずあるわけが‥‥。
でも、まぐれじゃなかったら、彼女自身が魔術に飛び込んだことになる‥‥。
どういうこと?
私は混乱しつつも一つの疑念を抱いた。
__本当に、彼女が?
毎晩遅くまで妹の冥福を祈る彼女が?いや、彼女が犯人だって証言もある。それに刃物を持ち歩いていたのだって怪しすぎる。こうやって急いで門を出たのも、殺人の後を見られてしまったからで‥‥。
「あははっ。‥‥え、エリース、さん。」
「‥‥なんですか、遺言ですか?」
「ま、まあ。はぁっ、そんな、とこ、ですよ‥‥。この紙を、読んで‥‥。」
「‥‥‥?こ、これは‥‥?」
苦痛に満ちているはずの彼女がなぜだか満ち足りたような顔なのが気になった。
とりあえずその蝶の刻印がついた紙を見ると‥‥、衝撃的なことが書かれていた。
「え、そ、そんな‥‥。そんなはずはっ!!」
『お前の妹は生きている。この先も生かしてほしければ、言うとおりにしろ。』
という書き出しから始まる最低な計画が載っていた。
__今日、誰よりも早く、そして誰かに見られるように廃墟に出入りすること。
__『ミュゲ村のエリース』を殺すこと。
その2つがおおまかに書かれていた。
そして、その証拠に妹さんのだという『目』があると書かれていた。今は無いけど、彼女の部屋にきっと‥‥。
これを書いた人の名前などはもちろんなかったが、なんのつもりか最後に『全ては愛のために』とだけあった。
‥‥違った。彼女は違ったんだ!!あの連続誘拐殺人事件の犯人なんかじゃなかった。ただ脅されて‥‥。きっと脅したのは‥‥、真犯人だろう。
唯一残っている犯人の筆跡とこの手紙の筆跡が似ている。
「〈デリート・デリート〉ッ!!」
私は急いで魔術を消去した。でも、魔術自体を消せたとしても『毒』自体は消せない。そういう魔法なのだ。『毒魔術』は。
「ごめんなさい、ごめんなさいっ!!」
「‥‥どうして、私がこんな馬鹿なことに、付き合ったか、分かり、ます?」
「‥‥ぇ?」
「‥‥分かります、よ。こんなの、違うって。イチイは‥‥。」
すぅっと息を吸って、思いっきりイヴォンさんは叫んだ。
「イチイはもう死んだ!!って‥‥。」
「じゃあ、なんで、なんでこんなのに従ったんですか!!馬鹿なんですか!?イヴォンさん!!」
「もしかしたら、犯人の手がかりが見つかるかもしれない、って‥‥。あなた達に知らせれば犯人を見つかる手がかりになる。‥‥死にたかったし、丁度良かったんです。それに‥‥、私は、愚かなんです。未だにイチイが生きていることを信じてしまうんです。イチイはあんなにぐちゃぐちゃだったのに。おかしいでしょ?笑ってください。」
『死にたかった』、この言葉にいつも暗い表情の彼女が自然と思い出される。
そのあと、彼女は自身の胸にあるネックレスを少しだけ握った。小さな青い蝶の型をとったネックレスだ。
「あ、と‥‥、このネックレスを差し上げます‥‥。」
「これは?」
「このネックレスは呪文を唱えると身体能力向上と精神が異常状態になるんです。使ったときにこの手紙の差出人へ通知が行くらしいです。保険、だそうですよ‥‥‥。今は‥‥、痛みでなんとか理性を保っていますけど、少しでも気を抜くと気が狂いそう‥‥。あはは‥‥。これを発動させてあなたを殺さないと‥‥、あの廃墟にいた子たちを皆殺しだと、書いてあるでしょう?これで、犯人が見つかる、かも‥‥。」
「っ!!」
本当だ‥‥‥。
「彼らは、私の妹の友達、なんです‥‥。私がっ!私が守らないと‥‥。ゴホッゴホッ。いた、い‥‥。」
「っ!!今すぐ教会の神父さまを!!」
「いいんです!!死なせて、ください‥‥。もう、耐えられない‥‥。妹が、イチイがいないなんて‥‥。」
「そんなことっ!!」
「本当に、私は、最低、なんです‥‥!!死なせてくださいっ!!なんで同じ緑の目のあなたが生きてるんだろうってあなたのこと、ずっと憎く、思って、‥‥。本当は!!本当はあなたのこと‥‥‥。‥‥‥っ!!ああ、イチイ。迎えに、きた、の‥‥?イチイ、ごめん。イヤな、お姉ちゃんで‥‥。」
「イヴォン、さん‥‥?違いますよ?わ、私は、エリースで‥‥。」
「イチイ、私、駄目なお姉ちゃんで、ごめ‥‥。」
私の目に手を軽くかざしたかと思うと、彼女はゆっくりと目をつぶった。
私のせいだ‥‥。私がもっと、ちゃんとイヴォンさんの話を聞いていれば‥‥。こんなことにはならなかった。
緑目の私を憎く思うほど妹への愛が深かった彼女が死んだのは、私のせいなんだ。
彼女は‥‥、ずっと変わらず優しい普通の人だったのに。
そもそも私がいなければ彼女は生きていたのだろうか。
冷静な勇者様たちなら、こんなミスはしなかっただろうか?
「ああああああああああっっっっっっ!!!!!死なないでええええええっっっっ!!!イヴォンさんっっっ!!!!!」
*****
「あ‥‥。」
思い出した‥‥。時間が巻き戻る前に体験したあの事件のこと、全部、思い出した‥‥。イチイちゃんのお姉ちゃんが‥‥、私が殺してしまった人族で。そして、真犯人は別にいるってこと?私は、誤って‥‥、だから後悔をしていたの?
新しいことを思い出したせいか、頭がやけに痛い。
その痛みを堪えながら周りを見渡すと、どうやらどこかの小屋のようだ。
「あれ?ここは‥‥。」
「目を覚ましたましたか?エリースちゃん。」
「っ!?ディザイアッ!?」
「‥‥『ディーさん』と呼んでくれないのですか?」
あ、しまった。普通にディザイアと一緒にいた記憶が強く出てしまってつい、言ってしまった。
「俺、なんかそうやってエリースちゃんに呼ばれるのが嫌いです。まるで俺を通して別の『誰か』を見ているようですごく気持ち悪くなるんです。」
「‥‥そうですか。」
それは、そうだろう。だって私は『ディザイア』と呼ぶときは時間が巻き戻る前の『ディザイア』のことを呼んでいるのだから。
「っ!!ところでイチイちゃんは!?」
だんだんと記憶が戻っていく。確かイチイちゃんはディーさんに殺されかけて、私は逃げようとして捕まったんだっけ。
「あそこにいますよ。」
その通り彼女は私と少し離れたところに鎖で繋がれていて、血塗れだらけであっても生きているようであった。
「よかった!イチイちゃん!!」
「でも、残念。」
ディーさんはニコリとしたけど、微笑みの要素が少しもなかった。
本当に、残酷で無慈悲を思わせる、まだ無表情のほうがましなようなそんな顔で‥‥。
「これから、イチイちゃんと『バイバイ』、しましょうね?エリースちゃん?」
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