第28話 決行決意!!


結局ディーさんは諦めたらしくディーさんの部屋で、寝る時間になるまでディーさんを含む3人で遊んでいた。




「はあーっ!!楽しかったのです!!今日はお仕事サボってよかったですぅ!!」

「え!?イチイちゃん、サボりだったの!?」

「はいなのです!でも大丈夫なのです!今は騎士さましか泊まっていないですし、特に何もしなくてもいいって言われているので!!そうですよね?」



イチイちゃんが『ねー?』というようにコテンと首を傾げるとディーさんが微笑んだ。



「ええ。そうです。大丈夫ですよ。団員も自分たちで身支度するほうが気が楽なようで。」

「そう、ですか‥‥‥。」



そういうものなのかな?



「じゃあ、イチイはおやすみなさいをするのです!また明日遊ぶのです!!」

「うん、明日ね?」

「あ‥‥‥、すみません。エリースちゃん、イチイちゃん。明日には出発しなければならないようなんです‥‥‥。」

「っ!?」



え?明日に、出発‥‥‥!?



「はっ、‥‥‥」



『早くないですか?』


その言葉が上手く言えなくてただただ息を吐くだけになってしまった。



明日に出発する、その言葉の意味は‥‥‥、ヴァンが自白したんだ。ここを出発するタイミングについて、ディーさんが前に『まあ、多分あの犯罪者くんが自白したタイミングじゃないですかね?』と仄めかしていた。



まさか‥‥‥、




「ヴァ、ヴァンは‥‥‥、ヴァンは無事だったんですか!?」

「その話はまたあとでにしましょう。イチイちゃんのお見送りをしてから‥‥‥。」

「っ!!そう、ですよね‥‥‥。」



流石にイチイちゃんの前でこんな話はできないに決まっている。私が浅慮すぎる。でも、自白する、ということは、ヴァンが冤罪を自白するということはつまりは言わせれた、ということだ。



__どうやって?




‥‥‥そんなの私がよく分かっている。言わせるためには、拷問が一番手っ取り早い。




「イチイちゃん、ばい、ばい‥‥‥。」

「エリースちゃん?」




私の、せい?私の、せい。私のせい‥‥‥。




「エリースちゃん。少しいいですか?」

「‥‥‥?」



イチイちゃんが私の耳あたりの髪をすくったかと思うと、私の露わになった耳に息を吹きかけるぐらいの近さで話した。



「このあと待っています。‥‥‥例のところで。」

「!」



例の、ところ‥‥‥。もしかして廃墟?!


思わずイチイちゃんの方を見ると、私だけに見えるようにニヤッと笑った。



「エリースちゃん?イチイちゃん?どうかしましたか?」

「なんにもないのです。言えないのです‥‥‥。まさかディーさんの悪口をふたりで言っていただなんて、あっ!!」

「イチイちゃん‥‥‥。」



呆れたようなディーさんだったが、私は気がついていた。イチイちゃんのこれ‥‥‥、わざとだ。わざとこんなこと言って、怪しまれないように嘘をついているんだ。廃墟に集まるときに邪魔されないように。



「それじゃあ、おやすみなさいなのです!!」

「おやすみなさい。イチイちゃん。」

「おやすみ。イチイちゃん。今夜はイチイちゃんの夢見そうだなぁ。」




ディーさんと私がそれぞれイチイちゃんに挨拶を返す。





‥‥‥今夜、か。




*****




イチイちゃんが出たあと、しばらく私達は無言だった。



「さて、エリースちゃん。君ももう寝ましょう。明日は早起きしてもらうことになりますので。」

「‥‥‥そうですね。」



ベッドに腰掛けて俯いていると、ディーさんが私の頬に触れた。



「エリースちゃん?顔色が悪いですが‥‥‥、そんなに君はあの犯罪者くんのことが気になるのですか?」




‥‥‥ヴァン。



「ヴァンは‥‥‥、無事、なんですか?」

「どうしてエリースちゃんがあんな犯罪者を気にかけるのです?」

「ヴァ、ヴァン、は‥‥‥、違うん、です‥‥‥。わ、私がっ!!私が、嘘をついて‥‥‥。」

「嘘?どんな嘘です?」




言って、しまった。嘘だと。違うと。



でも、本当に違うの。違うの。私はヴァンを殺したいわけじゃなかった。



あのときはただ、ヴァンを好きになることが怖いってことを無意識に感じて、あんな行動をとっちゃって‥‥‥!!でも、神様と話していたら、そのことに気がつけて!!



たったそれだけなのに、私が変なことして、ヴァンに変なことに巻き込んでっ!!




「違うん、です‥‥‥!!ヴァンと行動をともにしていたのは私の意思なんです!!私が一緒に行動したかったんです!!」

「‥‥‥」

「殺さないでっ‥‥‥!!ヴァンを!!ヴァンを殺さないでください!!ヴァンを、助けて‥‥‥。」

「エリースちゃん。」



ディーさんの服の裾を強く引っ張るとディーさんが私の肩を優しく叩いた。




もしかしたら。


もしかしたら副騎士団長であるディーさんが説得してくれるかもしれない。彼のそんな行動に私はそう思ってしまう。


一縷の望みをかけてディーさんの顔を見ると、




「ごめんね。」



笑っていた。




「えっ‥‥‥。」

「それはできない。もう既にあの犯罪者くんは自白してしまったんです。この事実は変えようがありません。」

「っ!!」

「それに、きっとエリースちゃんは脅されているのでしょう?あの犯罪者くんに。大丈夫ですよ。俺がちゃんと守ってあげますよ。だから安心してください。」

「違うんです!!脅されてなんかないです!!お願い!!お願いだからっ!!」

「大丈夫ですから。」




__噛み合わない。


私がどれだけ必死に訴えかけても彼にはほんの少しも心を動かさない。



いや、少しは動いている。私の憔悴した姿をしていることだけは彼の心を動かしていたと言えるだろう。少しだけ不安そうな目が私に向けられているから。



でも、それまでだ。ヴァンに関しては一切動く気はないのだろう。そう察してしまう。


ああ、思い出した。そうだ。そうだった。はそういう奴だった。あの時間が巻き戻る前のあのディザイアは自分の興味を向けるもの以外は非情だった。特に犯罪者に関しては容赦がない。


今回は『可哀想な被害者の子供』に興味があって『非道な犯罪者ヴァン』に興味はないといったところだろう。どうやったら私の機嫌が直るかが一番で、犯罪者の冤罪はどうだっていい。そんな感じだ。



でも、ディザイアってここまで非情ではなかった気がする。というのも確かに『犯罪者』には容赦なかったが『冤罪かもしれない犯罪者』『事情のあった犯罪者』には情けがあった、というのが印象強い。なのにヴァンのことは絶対に許さないという姿勢だ。




__人格が、時間が巻き戻る前と後で変わっている‥‥‥?



確かにヴァンがいい例だ。『師匠』は冷徹な人間だったが、ヴァンは温かかった。




ありえない話ではない。



でもこのままだとヴァンが‥‥‥!!



「じゃ、じゃあ、ヴァンに会うことは。」

「それも無理です。子供に無理をさせるわけにはいきませんから。」

「こ、子供じゃないです!!」

「すみません。エリースちゃん。」



駄目だ。話をまともに聞いてくれない!!これじゃあ、本当にヴァンがっ!!




「エリースちゃん。‥‥‥逃げようだなんて思わないでくださいね。そんなことをされたら俺も困っちゃいますから。」

「‥‥‥はい。」



逃げ出す、か‥‥‥。




最悪それしかないのかな。ヴァンを連れて逃げる。できないことでもない。やるとしたら今夜あたりしかない。


明日から旅立つなら、多分逃亡阻止のためにヴァンの監視の目が厳しくなっている。



イチイちゃんと集合して、別れたあとに行くかな。あの廃墟に何か役に立つものがあるかもしれない。



「それじゃあ、体を清めてから寝ましょうか。」

「はい。」



体を清めるための水を汲みに行こうとしているディーさんが私から目を離している。いますぐ飛び出たいけど、でも今じゃない。行くならディーさんが完全に油断したそのときだ。




「待っていてね‥‥‥。ヴァン。」




絶対に逃がすから。そのときに、ごめんって言うから。





窓をふと見ると満月の月が妖しく輝いていた。





__今日は、満月か。

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