第27話 巫子伝説!!

戻ってきた子どもたちとイチイちゃんで劇を見せてくれた。



『巫子伝説』という実際にあった話らしい。



世界が悪い王様に支配されていたとき、神様が怒り自身の代わりに、イチイちゃん演じる黒髪黒目の少女(本当は少年だったらしい)__、『巫子』をこの世界に遣わした。


そしてその少女巫子が色々な人と出会って悪い王様を倒して愛する人と結ばれる‥‥‥、というそんな話だった。



演者一人ひとりが子供がしているとは思えないクオリティだったし、背景とか衣装とかすごくよくできていて、演出も迫力があった。


でも、一番圧巻なのはイチイちゃんの演技だった。もう、小動物を沸騰させるあのイチイちゃんはいない。彼女の堂々とした姿はさきほどまでとは打って変わって別人のようだ。例えるならそう‥‥‥、イチイちゃんはその身に『巫子』という少女を降ろしてきたかのような。そんなふうに錯覚してしまう。



「『この世の主であるあなた様に宣誓します。必ず暴君を必ず倒し、この世に平和を取り戻すことを。』」



その決意に、



「『覚悟せよ。暴君よ。私は神の代理。王としての誇りを見失ったお前はこの世界には害悪。故に‥‥‥、失せなさい。』」



その怒りに、



「『さあ。この世に生きるものどもよ。これからは新しい時代の幕開けです』」



その喜びに、目を離さずにはいられない。



彼女の一挙一動に目を追ってしまう。その決断が、その悲嘆が、その微笑みが、どうしてか彼女巫子が感じているのと同じような感情を抱いてしまう。


演劇をよく知らない私でも分かった。イチイちゃんは天才だ。



終わったときはそのことにさえ、気がつけず、ただぼんやりと放心していた。私が終わったことに気がついたのはイチイちゃんが話しかけてくれたときだった。


「どう‥‥‥、でしたか?イチイの演技。」

「イチイちゃん‥‥‥、すごい!!すごいよ!!」


こんな実力があれば彼女はきっと世界を渡り歩ける。それを確信させる演技に私は多くを語ることができず、『すごい』しか言えなかった。でもこの感動を伝えたくて、私は彼女をぎゅっと抱きしめた。



「な?すげーだろ!?イチイ姉ちゃんの演技!!」

「すごい!!すごかった!!」


悪い王様役の男の子がにいっと私に笑った。


それに私もつられて笑う。


それを見た他の子たちも次々に興奮しながら、『だろ!?』『イチイお姉ちゃんはすごいんだよ!!』『姉ちゃんが今まで見た中で一番なんだよ!!』と誇らしげに笑った。


「もう‥‥‥、みんなそんなこと言って‥‥‥。」


苦笑するイチイちゃんも少し嬉しそうだ。


「みんなの、おかげなんです。」


イチイちゃんがいつの間にか自身の周りに集まってきた子どもたちに微笑みながら私に言った。


「イチイが演劇を出来るのは。」


そう私を抱きしめ返した彼女は‥‥‥、幸せそうだった。






*****




「エリースちゃん!?心配しました!!どこに行っていたんですか!?」

「あ、ディーさん‥‥‥。すみません‥‥‥。」



子どもたちと別れを告げてイチイちゃんと宿屋に戻るとディーさんが激おこだった。そういえば宿屋を黙って出てきたんだった‥‥‥。そりゃ怒られるよね‥‥‥。



「ち、違うのですぅ‥‥‥。エリースちゃんを怒らないでくださいなのです!!イチイが遊びに誘っちゃったのですぅ‥‥‥。」



しょんぼりとしながら私をかばうイチイちゃん小動物の姿にディーさんが先に折れた。



「はあ‥‥‥。まったく‥‥‥。次からはきちんと言ってくださいよ?」

「はい。すみませんでした。」

「はいなのです‥‥‥。」

「ところでどこに行っていたのですか?あなたたちは。」

「ひ、秘密なのですぅ!!」



怪しむディーさんはイチイちゃんを質問攻めにするが、イチイちゃんはあの廃墟のことは口に出さなかった。やっぱり彼女にとってあそこは大切な場所で、そして大人には秘密にすべきことなのだろう。



「エリースちゃんは知っていますよね?」

「え、ええっと‥‥‥。」



いきなり質問の矛を私に向けられてあたふたしてしまう。思わずイチイちゃんの方を

見ると、アイコンタクトされた。



‥‥‥『守秘せよ。』と。


いやいやいやっ!?ディ、ディーさんに隠し事とかできな、



「エリースちゃん?」

「うえええっ!?あ、あのっ!!そのっ!!」

「はい。」



ぐいっといきなりディーさんの笑顔が急激に近づいて怖かった。


ディーさんが浮かべるその恐ろしい微笑みに私は負けて‥‥‥、




「秘密ですっ!!」

「あ、エリースちゃん!?」



ダッシュで部屋に戻った。怖い。ディーさん怖い。

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