第22話 夢幻予言!!



__




気がつくと目の前に勇者さまと聖女さまがいる。


「エリース。あなたは足でまどいになる。今回は来ないで。」


そう、勇者様が仰った。


「まあ?そんな言い方では語弊を生みますわよ?ですが、エリースさん。勇者さまの言う通り、今回はやめた方がよろしくてよ。」


と、聖女様が窘めた。



でも、私は無言だった。



その様子に勇者さまがため息をつき、ある紙を渡した。



「失敗したら追放するから。いい?失敗は許されないのよ?……全ては完璧な世界のために。」



その紙にはある女の絵があった。


その女は私と同じく緑の目を……。



「連続誘拐殺人事件。この人の‥‥‥。」



__




「はっ!!!」


え、何!?今の夢!?



どうやら私は寝ていて、夢を見ていたようだ。でも‥‥‥。



「なんか、あの子が書かれた絵を見た気がするんだよな‥‥‥。」



確か‥‥‥。過去の記憶だ。あれは。あの懐かしさは。


ただ純粋に勇者と聖女を崇めていた頃。



夢には、その頃の私が勇者に紙を渡していた。緑目の女の子の絵だ。それには宿屋の娘の‥‥‥、確かイチイという女の子だった。


それと同時に連続事件というワードを聞いたんだよね?‥‥‥え!?



連続殺人事件にイチイちゃんが!?



つまり犯人はイチイちゃん!?


‥‥‥いやまさか、あんな純粋そうな女の子が連続殺人事件を起こすっていうの!?



でも、何度も経験があった。この人が!?っていう人が野蛮人になった。頼りにしていた人が亜人の味方になった。



ありえない話ではない‥‥‥。




となれば問題は



「なんの連続殺人事件だろう?」



イチイちゃんが関わる誘拐事件がどれかがわからないことだ。



何度も何度も私は殺人事件とか『仕事』できな臭い話にも関わってきた。そのため、何に関わったとかあまり詳しく覚えていない。



なら、あの懐かしさは気の所為で、所詮はただの夢だったっていうオチ?



あの夢が‥‥‥、嘘‥‥‥。


腑に落ちないところもある‥‥‥。



その時だった。コンコンと軽やかなノック音が聞こえてきた。



「おはようございます。エリースちゃん。本日のご機嫌はいかがですか?」

「ディーさん‥‥‥。おはようございます。」


どうやらディーさんが私を起こしに来たらしい。



その鮮烈な臙脂色の瞳を見ていると‥‥‥、思い出されるようなことが‥‥‥。



「どうしたんだい?」

「っ!?い、いえなんでもありません。」



やめだやめ。


所詮は夢に過ぎないし、気の所為だ。気の所為、だけど‥‥‥。



「あ、あの‥‥‥。すみません。ディーさん。この辺りで誘拐事件とか殺人事件とかって、ありま、せん、よね?」



それでもつい気になってしまってディーさんに聞いてしまった。



「う〜ん。君以外でそんな話はあまり聞かないね‥‥‥。」

「そ、そうですか‥‥‥。」



私以外、ね‥‥‥。その言葉に苦笑してしまう。



う〜ん。それにしてもこの世界は本当に平和なようだ。


私達がいた頃は血生臭い話が多く、殺人事件の話もわりと多かった。そのため連続誘拐殺人事件なんてあってもおかしくはなかったし『教会』から依頼されて何度も騎士たちと共同戦線を張ることがあった。



それと何も聞かないだなんて比べたら随分とこの世界は平和だ。


だが、念のためにイチイちゃんを警戒するに越したことはないだろう。なんせあの勇者が私に見せた人物だ。過去のことを夢で見ることもあるというし気をつけて接しよう。


でも私の第一の目標はあくまでも勇者への復讐。連続誘拐殺人事件よりもそちらが最重要事項だ。あまり事件の方に気もそぞろにしすぎてはいけない。



「そうでした。イチイちゃんを覚えていますか?彼女がエリースちゃんに会いたがっていました。それで‥‥‥、今、外にいるのですがお呼びしてもよろしいでしょうか?」

「あ、はい。どうぞ。」



‥‥‥えー。もしかしたら連続誘拐殺人事件の実行犯かもしれない人物と会うのか‥‥‥。


でも部屋に泊まらせてもらっているから流石に断れないしとりあえず様子見でいくか。内心、ため息をつきながら入室を許可する。



すると元気な声で洋服が現れて挨拶した。


「おはようございますなのです!」

「ふ、服が喋った!?」



えっと‥‥‥。どういうこと?



「むむっなのです!お洋服さんではありませんなのです!イチイなのです!」

「ああ、イチイちゃん‥‥‥。」



どうやら広げた服を持ってきたようだが服が大きすぎてイチイちゃんが隠れてしまっていた。畳んだ状態で服を持ってくればいいのに‥‥‥。


「エリースちゃん、その格好ではしんどいしんどいなのです!着替えるのです!」

「あ‥‥‥。」



確かに私は領主様との謁見のときのドレスを着たままだった。



「エリースちゃんが着替えるならなら俺は外に出たほうがいいですね?」

「お願いします。」

「もしかして‥‥‥、着替え、手伝ってほしいですか?」

「‥‥‥結構です。」



おお。紳士的‥‥‥。と思ったらこれじゃあロリコンという名の変態だよ!!


あははと笑いながら外に出るディーさんをしかめっ面で追い出す。



「イチイが手伝いますなのです!!」

「いや、大丈夫だよ‥‥‥。」



大丈夫だからそんなキラキラした目で見ないで‥‥‥。




******


着替え終わって部屋を出るとイチイちゃんが目を輝かせて似合う似合うと喜んでいた。


「これはイチイのお洋服なのです!!」

「いいの?着て。」

「もちろんなのです!!」


とのことだったからありがたく着させてもらう。ちなみにドレスの方は中古の服を売るところにディーさんが売ってくれるらしい。流石にあれを持って旅はできないからね。



洋服は町娘風の普通の服だがところどころリボンが付いていて可愛らしい。


「可愛いのです!!」

「可愛いですね。」


イチイちゃんとディーさんのありきたりなはずの褒め言葉に自分らしくなく照れてしまう。


「あ、ありがとう‥‥‥、ございます。」

「エリースちゃん!!イチイと遊ぼっ!!」

「‥‥‥わかったよ。遊ぼう。」


例え夢でも、イチイちゃんが連続誘拐殺人事件に関わるなら、念には念を置いて監視下に置いておいたほうがいいだろう。それなら一緒にいるのが一番という私の打算を知らないように見えるイチイちゃん。そんな彼女は私と遊べるということでぱあっと顔を明るくしている。


う〜ん。罪悪感。


「それならおままごとをしたいのです!!しましょうなのです!!」

「わ、分かりました‥‥‥。」



あ、遊びってそういう‥‥‥。

私はてっきり戦闘ごっこをするのかと‥‥‥。いや、普通の女の子はしないか。仮想の敵を倒すトレーニングなんて。


私におままごと‥‥‥。できる、かな‥‥‥。


イチイちゃんのレベルに合わせながらか。厳しそうだな。


しょうがない!ここは恥を偲んで小さい子の扱いができそうなディーさんに救助を!!



「ディーさんはどうされます?」

「俺は用事があるので後で参加させていただきます。何かあったら他の騎士に伝えてください。あと、この宿からは出ないでください。念の為です。絶対ですよ?」

「分かりました。」

「はいなのです!騎士さま!!」


ちっ。逃げられた。



「さあ、やろうなのです!エリースちゃん。」

「うっす‥‥‥。わかったよ。」



そうして、私達はおままごと苦行を始めた。


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