第21話 罪悪症状!!

聖人様もといディーさんの「これからの話し」というのはこうだった。



まずこのイェレロの街で旅の備蓄を買い込む。そして機会が来れば、私の故郷であるミュゲ村へ旅をするらしい。いくつかの街をたどり、休み休み行けば半月で故郷につくらしい、今回は私の身に気を使う安全第一な旅をするらしい。


他の人とミーティングをしなくてよかったのかは疑問だったが、『いつもと同じようなパターンだから大丈夫』らしい。



そしてその『旅に出る機会』、というのはまだこの人も分かっていないらしいが、



「まあ、多分あの犯罪者くんが自白したタイミングじゃないですかね?いつも団長‥‥‥、ってあの偉そうに犯罪者くんと話していた人ですよ?その人がいつも『仕事が楽だから〜』とか言って現場で自白させてるから趣味悪く、あ、いえ、なんでもありません。エリースちゃんには少し早いお話でしたね。」


とのことだった。


あのリーダーっぽそうな人がどうやら白蝶騎士団の団長だったらしい。



犯罪者、つまりヴァンが自白などするのだろうか‥‥‥。実際は一応合意の上ではあったし‥‥‥。




「あの、その、あの人は今、どこに‥‥‥。」

「安心してください。あの館の地下で団長が尋問していますから。」



‥‥‥尋問、か。


ヴァンは、無事、だよね‥‥‥。



「あの、ディーさん。その悪い人っていうのは‥‥‥、この後どうなるのですか?」

「ああ、あの誘拐犯ですか?」



別に心配なんかじゃないけど‥‥‥。追い払っても追い払ってもしつこく着いてくる『罪悪感』によってつい聞いてしまう。


まあ、誘拐といっても誰かが殴られたわけでも、ましてや殺されたわけでもないからこんなのどうってこと‥‥‥、



「‥‥‥」

「え‥‥‥?」

「誘拐は大変危険な犯罪です。その罪の重さから考えて‥‥‥。」



そのディーさんの言いよどむ口が確かに動いた。


ディーさんの口からほんの少しだけこぼれた小さな呟きが私に衝撃を与えた。





え‥‥‥?は?


こ、こんぐらいで、そんな。




__い、のち‥‥‥。



「こほん。すみません。重い話でしたよね。楽しい話をしましょう!」

「‥‥‥そう、ですね。」



違う違う違う。


私は揺れる自分にバッテンをつけた。



私はこれで正しい。亜人は皆殺されるべき。


冤罪?それがどうしたっていうの?亜人は生きているだけで罪じゃない。ねえ‥‥‥、私?


何度だって見捨てようとした。それがただ『今』というだけじゃない。




「あの、もう一つだけいいですか?」

「はい。なんでしょう。」

「ここを出発するのはいつになりそうですか?」

「そうですね‥‥‥。できれば5日後の朝には出発しようと考えています。」

「5日‥‥‥。」



何もかも利用して私は復讐しなきゃいけない。


例えば煩わしい亜人を見捨てて、楽そうな人族を選ぶみたいに。



そうやって汚く泥を啜って‥‥‥、そして復讐するんだ。勇者に。



亜人ごときに罪をなすりつけたぐらいで、ゆらいじゃだめだ‥‥‥。



「さて?それより、どんな話がいいですかね?」

「‥‥‥あ。え、えーっと‥‥‥。」



なのに、なんで心が揺さぶられるんだろう‥‥‥。しつこい!!私は、私はっ!!


「‥‥‥エリースちゃん。何も思いつかないようだし、俺が勝手に話していましょう。つまらない話ですから、子守唄代わりにでも聴いてください。」

「‥‥‥?はい。」

「むかーしむかし。あるところに女の子が1人住んでいました。」


その声はまるで催眠術のようにすっと心に入り込むような、そんな落ち着いた声だった。それで、少し私も眠たくなってしまう。あんだけ私の中に激震を走らせたこのフクザツな感情もいまはおとなしい。


眠たいのはきっと子供の体で疲れやすいっていうのもあるんだろうけどね‥‥‥。ふわぁ〜っ。



「その女の子は一人ぼっちでした。誰もお友達がいない。そんなひとりぼっち。」



ヴァンは‥‥‥、一人ぼっちで‥‥‥、館の地下に‥‥‥。



「その女の子は思いました。『私が一人ぼっちなのは、私が悪いんだ!』と。」



私が‥‥‥、わる、い‥‥‥。



「そしてその女の子はたくさん頑張って、ついに皆に認められるようになったのです。そしてその女の子にはたくさんの‥‥‥とも‥‥‥が‥‥‥でき‥‥‥‥‥‥‥こで、‥‥‥‥‥‥。おや?」



んにゃ‥‥‥。


なに、って‥‥‥。




「おやすみなさい。エリースちゃん。」




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