第16話 歪形世界!!
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「大変だった‥‥‥。なんとか洋服をゲットして着れたぜ‥‥‥。」
「全てヴァンのせいですからね? 大変だったの。これだから亜人は‥‥‥。」
「さーせん。」
あのあと、兵士さんと店員さんをなだめたり、ヴァンの服を貰ったり、店員さんがヴァンの服を無理やり脱がせようとしたり、それを阻止したり、お店を出るときに離れたくないと店員さんが泣き叫ぶのを見て兵士さんが泣き叫んだりして大変だった‥‥‥。
今は着替えを済ませて、領主さまの親方へ馬車で移動中だった。お付きの兵士さんはあまりにも殺気が漏れていたため御者席に座らせた。だってあの目‥‥‥、ヴァンを殺しそうだったんだもの‥‥‥。どうせなら私が亜人であるヴァンを殺す!!
「ちびっ子? 何か物騒なこと考えねえか? お前の顔見て悪寒がしたんだが‥‥‥。」
「気の所為じゃないですか? 」
「そうか‥‥‥。」
‥‥‥勘がいいな。
そんなヴァンの格好は深い紺のタキシードだ。窓際に肘をつき足を組んでいてお行儀が悪いがそんな格好もサマになって、王子様みたいだった。
おそらくあの店員さんがこの格好を見たらあまりの眩しさに何も見れないだろう。
「ん? こっちをそんなに眺められると照れるな。」
「亜人ごときがそんなにタキシードが似合うとムカつくな、と思いまして。」
「おう! ありがとうな! ちびっ子もかなり似合っているぞ! どっかのお姫さんみたいだぞ!! 」
「は? 馬鹿にしているんですか? 」
「照れんなよ〜? ちびっ子ぉ〜? 」
「うぜー。」
私の嫌味にもなれてきたなコイツ‥‥‥。
そう思う私のドレスは、店員さんに先程渡されたエメラルドグリーンのドレスだ。10歳の私にちょうどいいサイズのドレスだから、プリンセスラインだ。あのスカートがふんわりしているやつ。レースや宝石、リボンがふんだんに使われ、なんというか‥‥‥、フリフリだった。フリフリ。17歳が着るには‥‥‥、しんどいですね。はい。
でも私じゃなくて領主さまのポケットマネーからお金が出ているし、なにより他に着るものがない。お店も私ぐらいの子の服が他にもないと言っていた。
さっきまで来ていた服は傷一つ負わなかったけど、それでも十分汚れていたし、洗わなくちゃいけない。それに領主さまの前に中途半端な格好で出られるわけがない。
「にしてもフードがないのは違和感がある‥‥‥。」
「その酷く醜い耳に吐きそうです。」
その言葉にヴァンが私の頭を撫でた。
「素直になれよ‥‥‥。ちびっ子。」
「なんです? 」
「お前、ただ単に吐きたいんだろ? 馬車酔いで。」
そういうことじゃない。
私は無言でヴァンの手を打ち払った。
「なあ、ちびっ子。真面目な話、俺の耳を見て、人族の二人‥‥‥、店員さんとあのストーカー兵士は嫌悪感を抱いていたか? 」
「‥‥‥」
私は口を噛みしめる。私の空元気にきっとヴァンは最初っから気づいていた。
あのストーカーはともかく店員さんは‥‥‥、ヴァンの耳を見ても態度を変えず、そのまま求婚していたのだ。
__ありえない。
亜人と知りながら求婚するなんて、唾棄すべきだ。おどろおどろしい。
巻き戻る前ならば、こんなことありえない。嫌悪感を見出さないことが。態度が変わらないことが。
人族は人族を裏切らない。
人族は彼らを蹂躙した。どんなに完璧な人でも、どんなに素晴らしい行いをする慈愛に満ち溢れた人でも、どんなに愛し愛されていても、その人が亜人である。これだけが排他される理由だ。それが悪いことなわけがない。
絶対に悪いことじゃない。悪は亜人だ。
これが否定されたら『私』が否定される。あの17年間、亜人を否定し、亜人を排除して‥‥‥、亜人を殺害した。そんな『私』の人生が。
なのになんで店員さんは変わらず亜人に愛を捧げるのだろうか?なんであの兵士さんは亜人であること以外を指摘し、怒るのだろうか。
なんで、神父様は‥‥‥、私を殺そうとしたのか。
私はそっと口を開いた。
「亜人は‥‥‥、本当に人族と共栄したのですね。」
「ああ。」
「なんで‥‥‥。人族は、『私』を裏切ったのですか? 」
「裏切ってなんかない。傲慢な言い方かもしれないけど、これが世界のあり方だよ。」
「世界の、あり方‥‥‥。」
「そうだ。」
「そんなの、認めない!! 」
半信半疑だった。亜人が人族に受け入れられているなんて。
でも明らかに一般人である彼ら彼女らが亜人を朗らかに受け入れていたのだ。
じゃあ、『私』は? 私の世界は? あれは歪んだものなの? 存在しちゃいけないものなの?
「ちびっ子。いきなり違う価値観が押し付けられて困るのは分かる。だが、」
「世界が!! 世界が私を裏切った!! 私は神様に選ばれた存在なの!! なのに‥‥‥、こんなのなら、こんなことなら時間なんて巻き戻してほしくなかった!! もういや!! 認めてよ!! 私はいらない子なの!? こんな世界なら、私は死にたい!! 私だけ仲間はずれな世界は嫌だ!! 平和じゃなくたっていい!! 帰してよ!! 私の大好きな人のもとに!! こんな世界、全部全部全部ニセモノだよ!! 」
なんで‥‥‥、神様は私をこんな偽りだらけの世界に送ったの?
お母さんもお父さんも神父様もヴァンも店員さんも兵士さんもあのデモンも今まで会ってきた人、全部ウソだ。
後ろ指を刺されることなんてしてない‥‥‥。私は褒められることしかしてないもん‥‥‥。
でも、なんでこの生き方を認めてくれないの?
もう‥‥‥、もう死にたい‥‥‥。時間がずっと進んで、あの勇者に手をかけられた瞬間に‥‥‥。
『ホンモノ』に愛されていたあの頃に戻りたい。
「‥‥‥ちびっ子。」
「うるさいです。ニセモノ。」
「復讐しろ。」
「は?何唐突に言っているんですか?」
「復讐しろ。」
「は?」
‥‥‥前に復讐するといった時、ヴァンは確かに反対したはずだ。なのになんでいきなり、今‥‥‥。
「旅のついでに復讐しろ。ついでに亜人について考えてけ。」
「つまり復讐を手伝うと? 」
「あくまでそういうことは自分で達成しろ。俺はお前にこの世界の常識ってやつを教える旅のガイドだ。」
「まるで役に立たないんですけど‥‥‥。」
「まあ、いいじゃないか。いいストッパーになるぜ? 俺は。」
「それって足手まといって言うんですよ? 」
「それを言うなって〜! 」
唖然として、さっきまであんなに憤っていた感情もいつの間にか霧散していた。
「はあ‥‥‥、もうなんだか世界がどーこーとかどうでも良くなってきました。」
「そうか。それならよかった。」
「‥‥‥ちゃんと復讐に少しでも『旅のガイド』として協力してもらいますからね? 」
「さあ? それはお前しだいじゃないのか? 」
「‥‥‥むう。」
「あと、領主さまの前で亜人がどうこうとか汚い言葉使うなよ? 一気に異端者コースだからな? 」
「分かっています。『教会』にわざわざ否定されたく、ないですから。特に今は。‥‥‥私は今、とても滑稽ですね。」
「滑稽滑稽コケコッコー!」
「殴りますよ。」
「すみません。調子乗りました。」
これが狙いかどうかなんてわからない。でも、確かに私はさっきまで憔悴していたし今は落ち着けている。だからほんの少しだけ、ヴァンに感謝しても、いいかもしれない。
「さて、それよりも気になるのがお前の魔術だ。」
「はい?もう魔力が気になるんですか?もう魔力障害は治ったはずですよね?」
「‥‥‥一回、魔術を使ってみろ。」
「あ、はい。」
えっと、浄化系でいいかな?
「〈ピュリフィケイション・ベラ〉」
__そのとき、世界が揺れた。
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