第13話 魔術使用!!

 衝撃を覚悟した私は目をつぶると、ドサッという重さが増してうつ伏せの状態になってしまった。きっと上位デモンに馬乗りにされているんだ!! 殺されるんだ、私。殺される覚悟は常々、時間が巻き戻る前の旅ではしてたけど‥‥‥。



 ‥‥‥ジョーダンじゃないわ!!復讐できずに死ぬなんて!!



 うっ、でも体が動かない‥‥‥。


 そうか‥‥‥、私死んじゃったんだ‥‥‥。



「ちびっ子? 大丈夫か? 」

「大丈夫なわけあるかー!!! 」



 ってあれ? 声は‥‥‥、出る。死んでない? でも身体が‥‥‥。



「ど、どうなってやがる‥‥‥!? 」

「え?」



 何がどういうことなのですか!? ヴァン!! うつ伏せで見えないよ!!



「デモンが攻撃しようとしている体勢で固まっているのって何でだ‥‥‥? もう一度仮死アスフィクスィアになったのか? それにしては宝玉がさっきとは変わっていないし‥‥‥。何よりもビクビク痙攣していて恐ろしや!! 」

「‥‥‥」



 解説ありがとうございます、ヴァン。そしてあなたの解説を聞いて分かったことがあります。上位デモンが攻撃をせずに固まっているのなら‥‥‥。私に乗っているのは、間違いなく、



「ヴァン! 重いです!! 早くどいてください!! 」

「ふっ。俺の筋肉が、だろ? 」

「いえ、間違いなく贅肉ですね。」

「むっ!! 」



 ヴァンだ。というかヴァン以外ありえない。しかも今になって成長しても得られなかったあのフニフニぷよぷよを感じ‥‥‥、いやなんでもない。


 ヴァンは少し怒りながら私の背中からどいてくれた。



 にしてもやっとどいてくれた‥‥‥。重かった。とても。


 私は上を向くと、確かに上位デモンがヴァンの言うとおりの状態だった。毛の下から見えるヴァントは違って逞しいその筋肉をビクビク痙攣させながらこちらを憎らしげに見つめている。なのにこちらには攻撃せず、ただ両刃を上に掲げるだけ。



 そんな‥‥‥、まさか‥‥‥。


 私はこの光景を



「これ‥‥‥。」

「どうしたんだ?ちびっ子。」

「これ!です‥‥‥。効果も同じようなことですし。」

「なんだと!?魔術障害が治ったのか!?」

「どうでしょう?」



 でも、魔術が使えるかどうか試すのがほんの少し恐ろしかった。また使えないんじゃないかって、思ってしまって。



「試してみるか?」

「‥‥‥」



 そのときだった。



「グルアアッ!!! グルアアッ!!! グギュアアアアアアアアアッッ!!!!!!!! 」



 抵抗しても無駄なことを悟ったのか、いきなり上位デモンが哭いた。


 その声は地震かと思うぐらい地を揺るがした。その咆哮はまるで何かに伝えるような声だった。そう、それは人間が神様に祈るような。そんな声だった。奇跡を願う。そんな声。


 そして




「グギャアッ。」

「グオオッ! 」

「グギャアー! 」



 先程まで倒れていたデモン犬っころたちが立ち上がり、私達に武器を向け始める。それだけではない。気配がどんどん増えていく。どんどんどんどんどんどんどんどん。



「どういうこと‥‥‥? さっきまで聞こえなかったぞ!? こんな大勢の鳴き声!! 」

「まさか‥‥‥。」



 デモンをこの上位デモンが増やした、ということでファイナルアンサー?



「グアアッ! 」



 私の心の内を読むようにその上位デモンはニヤリと笑った気がする。



「この上位デモン、聖句でちゃっちゃと殺っちゃうべきでしたね‥‥‥。」

「まさかこのデモンが配下を増やしたと言いたいのか!? ちびっ子!! 」

「そうですね。おそらくは。粘着質なタイプは好きな子に嫌われちゃうと思います。」

「そんなことを言っている場合じゃないだろ!? 」

「本当ですよ。ヴァン。うるさいです。」

「俺なのか!? 」



 さて、ここからは冗談抜きだ。


 おそらくこの上位デモンは私達を罠にはめた。コイツはきっと配下の生死さえも操る能力を持っている。


 作戦としては私達が二手に分かれたのを見て、配下を半分に分けた。おそらくは私達をそこそこ弱らせたかったんじゃないのだろうか。そこそこでもいい。弱らせさえすればいい。


 そして、斥候との戦いを見た感じ強かった方である私を配下を見て観察し、確実にダメージを与える。まあ、与えられてないんだけど、きっとこのデモンの頭の中ではそうだろう。


 そして二手に分かれたってことは合流しなければならない。そのため聖句を読んでまで完全に殺しはしないだろうと思ったのだろう。ヴァンがやられていないか私が焦っているのを見越した上で、というのはデモンの頭の中だけで私は少しも焦っていなかった。ただ油断してただけだ。

 まあ、賭けになるだろうが。それでも私は聖句を後回しにした。


 きっとコイツ上位デモンが倒れると配下も倒れるシステムで、コイツもそれが分かっていた。そこで強キャラな私を包囲するためにあえて配下が倒れているところに行かせてそして完全なる死をする前に配下たちを生き返らせて私を殺す。


 もちろん、コイツだって無事でいれるわけがない。一度仮死アスフィクスィアを賜ってしまうのだ。もちろん仮死アスフィクスィアだから生き返る可能性だってないわけじゃないが、私に聖句を唱えられて即死する可能性だってあるわけだ。だが、コイツの矜持が許さない‥‥‥、というとこか?



 上位デモンは、いや、こいつの場合は超位デモンだろう。上位にしては頭が回りすぎる。それに、上位じゃこの矜持を守るような作戦はしない。何故なら生存本能から生き残ることが最優先なのだから。



 でもコイツは違う。命よりも自身のプライドをとった。それは知能が高い証だ。



「グアアアアアアッッ!!」

「おいおい‥‥‥、どうするよ、ちびっ子‥‥‥。」



 やばい‥‥‥、このままだと死んじゃう!!せめて魔術がもう一度使えたらいいけど‥‥‥。確実にできるなんて確証できないのに、下手に魔術を使おうとして魔力暴走したら命はないだろう。


 どうする‥‥‥?剣はヴァンのものを使ってもいいけど、ヴァンをかばえる自身はない。こいつらは私達のことを、仮の死まで与えた私達のことを逃がそうとするはずがない。




 __ヴァンを見捨てる?



 そんな考えも浮かぶ。そうだよ。さっきから見捨てようとしてたじゃん。捨てようよ。



「グオオオオオオオッッ!! 」



 超位デモンや犬たちが一斉に私達に襲いかかっている。残虐な光を目に宿しながら。



 その凶器を、まずはさっきから弱そうなヴァンに。



「くっ! ちびっ子、早く逃げろ! ここは俺が食い止めておくから!! 」



 ヴァンももう諦めて目をつぶってしまっている。


 そうだよ。まだ復讐は終わってないの。逃げなきゃ。逃げなきゃ‥逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ‥‥‥。



「グギャアアアアアアアアアアアッッ!! 」

「っ!! 」

「‥‥‥ちびっ子? 」



 私の選択は超位デモンに背を向けてヴァンとの間に割りいることだった。



 ああ、なんて馬鹿なんだろう。憎らしい亜人相手に。



 でも、何でか身体が勝手に動くし、私の脳が訴えかけてくる。さっき乗られたのはヴァンがかばおうとしたから。私が自ら死のうとしたときも怒った。旅に出ようと言ってくれたこともあった。ヴァンといる時間は短い。とっても。ヴァンは亜人だ。憎い。ヴァンは師匠だ。その鼻をへし折ってやりたい。




 なのに、何故か。かばってしまった。




「グオオッ。」



 にしても、また私に何も来ないのはご都合主義ってやつですか?


 恐る恐る超位デモンの様子を見てみると‥‥‥。



「き、気絶している? 」



 これも私の汎用していた魔術だ。暗殺者や同族によく使っていた。



「ちびっ子、やっぱり魔術が使えるんじゃないのか? 」

「そ。そうなんでしょうか‥‥‥? 」



 って呆然している場合じゃなかった。



 次のデモンが来る!! 数は多い。到底、剣じゃ間に合わない。


 やっぱりこのまま死ぬのかもしれない‥‥‥。死にたくない! 生きたい!! まだ、復讐できてない。お母さんにいつもありがとうって言えてない! 神父様ともう一回話してみたい!


 ‥‥‥ヴァンと、まだ全然旅が出来ていない。



「もうダメ元でもいいや。」



 このまま死ぬより、足掻いたほうがいい。たとえ魔力暴走になってしまってもいいから、生き残ることができる可能性のある魔術を使う!! 私はまだ生きていたい!!




 __私はまだ!! 死にたくないっ!!!



 お願い、出て‥‥‥。震える手を必死で握りしめながら、私は呟いた。





「〈ライト・ガン〉!!」






 その瞬間、森が爆発した。

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