第3話 魔力暴走!!

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 神父様が『こんな機会滅多にないしこの商人さんがどこまで本気かわからないからとりあえずご両親と相談してきなさい』とおっしゃった。出来れば止めてほしかったのだけどね。『自分から機会を逃してはいけないよ』なんて神父様に言われてしまったら何も言えないよ。


 というわけで自宅ナウ。(with 師匠)


「えっと、粗茶ですがどうぞ。」

「うん。ありがとう。本当に粗茶だね。こんな粗末なお茶、久しぶりに飲んだよ。」


 うわっ、滅茶苦茶ムカッてするわー。せっかく人がお茶を入れてあげたのに!旅の間はお茶なんて入れることはなかったから久しぶりのお茶なのにもてなす相手がこれじゃーなー‥‥‥。しかも人んちなのに偉そうに顎杖をついて、足を組んでるなんて‥‥‥。本当にその精神が羨ましいわ‥‥‥。小心者の私じゃとてもじゃないけどできないよ‥‥‥。


 心の中で文句を垂れ流していると、いきなり師匠が真面目な顔をして、私に問いかけた。


「あのさ‥‥‥、一つ聞きたいんだけど。」

「はい、なんでしょうか? 」

「君って‥‥‥、死にたいの? 」

「はい?」


 ん? どういうこと? なんで私自殺志願者になっているの?


「あんだけの魔力を持ちながら、まだ魔力を増やそうとしてたでしょ? 」

「わかり、ますか‥‥‥? 」

「まあ、一応魔術の心得は知っているからね。魔術関連の商品を扱うし、そういう知識は不可欠だからね。神父さんはそこら辺のことは分かっていなかったっぽいけど。」

「そうですか。」


 う〜ん。でも時間が巻き戻る前に村の人達が魔術の知識がないことをいいことに上辺だけ繕った言葉でガラクタ売っていましたよね? あなた。覚えているんですよ。あなたが村を去った途端、あなたから買った商品が全部使えなくなったんですよ?


 ジトォッと師匠を見ているのを知ってか知らないかはわからないがズズッとお茶を飲んでから再び私に問いかけた。


「わざわざあんなに大量に増やすなんてどうやってしたんだろうって思ったんだけど、やっぱり禁呪を使ったんだろう? 」

「‥‥‥はい?」

「そうだよね。苦痛なく死ねるから。」


 禁呪? 死ぬ? だからなんで師匠は私がわざわざ死にに行こうとしていると思っているの?


「わ、私は死のうだなんて思ってません!! 」

「うん‥‥‥、理由は言えないよね。わかっているよ。」


 あ、ダメだ‥‥‥。この人話を聞こうとしてない‥‥‥。


「確かに禁呪は効果てきめんのようだね。君の魔力は普通の人族の何倍もあるだろうね。でも何を贄にしたんだい?動物‥‥‥、ではこんなにも魔力がないだろうし、人族ならばその大きすぎるマナから魔力への変換効率が異常に良くなりすぎるはず‥‥‥。絶対に生きてはいない。」

「ま、待ってください!! 禁呪など‥‥‥!! 」


 禁呪ってあれ? 生贄を捧げる代わりに魔術の才能を無理やりこじ開けるやつ?この国で使用すれば王族でも重罪になるという? 確かに楽に死ねるとは聞いたことがあったけど‥‥‥。復讐しなきゃいけない相手がいるのにむざむざと死ねないし、第一そんな死ぬリスクのあるもの誰がするか!


「わかっている‥‥‥、罪になることを恐れているんだよな? 生きて帰るなんて思ってもいなかっただろう。大丈夫。人族を使って禁呪を行っていないなら俺は君を助ける。君みたいなちびっ子がそんな自殺をするなんて‥‥‥、この国も反吐が出る。幸い神父も味方だったし平気だったんだろうけど‥‥‥、それでも辛かったな。君みたいなちびっ子がよく『教会』の支部に行くなんて余程家にいるのが辛かったに違いない‥‥‥。身体も神父から聞いた10歳とは思えない‥‥‥。きっと虐待を受けたのだろう‥‥‥。」

「え」


 師匠‥‥‥、すごい思い違いをしてますね‥‥‥。本気で言っているような師匠に正直引いた。いや、同情してくれているのは別にいいんだよ? でもさ、その同情している内容が事実無根で全部師匠の妄想って‥‥‥。怖いわ!


 それにあの傍若無人で一週間土下座してやっと弟子入りさせてくれたあの鬼畜と同一人物とは思えない‥‥‥。師匠こそきっと精神系の魔術にかかっているに違いない。あと身体小さいは余計だわ! 生まれつきです!


「あのですね。私はこの家に恩義を感じているのですよ。」

「隠さなくてもいいんだぞ?」

「いえ、あの隠してません。」

「そうだよね。大人にされたことって言いづらいよな。」

「いやだから。」


 もし私が真の10才児でそういう状況に置かれていたら言いづらいかもしれない。でも私中身は17歳!! この国では16歳からが結婚適年齢だから私は大人!! 普通に言えるから!!


「時間はたっぷりあるからね。」

「‥いやだから」


「話ってなんだ? エリース。この方が俺たちに話したいことがあるっていうことか?」

「どうしたの? エリース。」

「あ、お父さん、お母さ、」


 どうやらお父さんとお母さんが帰ってきたみたいだ。早くこの不審者ことボッタクリ商人である師匠を追い出してほしい。


「どうもはじめまして。魔術関連を扱う商人です。突然ですがあなた方の娘さんを俺にほしいのです。」

「は?」


 バカ師匠‥‥‥。それ、プロポーズに聞こえるじゃん‥‥‥。師匠のなりは20代後半の若い男だ。同年代ならともかく、10歳の女の子を嫁に貰いに来る大人って‥‥‥。


「「変態だ‥‥‥。」」


 ほら、お母さんもお父さんも声を揃えて師匠のこと変態っていっていますよ。


「お、お前に娘はやらん!」


 お、お父さん‥‥‥!!


「それなら100万ハウツいただきますね。俺、このちびっ子を助けたんですけどまだお礼もらっていないので。」

「100万ハウツ‥‥‥。エリース!? 大丈夫なの!? アンタ!! 」


 お母さん絶句。そりゃそうだろう。娘を助けたことから初耳だろうし、しかも助けたことで100万ハウツなんて払わなきゃいけないとか自分の娘はどんだけ高級な薬を使われたんだ!? ってなるよね‥‥‥。


「ああ、もう治っているので大丈夫です。そして100万ハウツの支払いについてですが一つ抜け道があります。」

「ぬ、抜け道‥‥‥。」


 いつの間にかお父さんとお母さんが神妙な顔で師匠の話しを聞き入っていた。だめだこりゃ。師匠の言っていることは馬鹿らしいし、師匠は100万ハウツの価値があることを私にしていないのにそれを聞かず、ただ師匠の醸し出す雰囲気に飲まれてしまっている。師匠のテクだ。本当に嫌な技ばっかり持っていらっしゃる。私もこれに騙された口だけどね。

 これのせいで『この人は本物だ‥‥‥! 』って思ってしまった。魔術の本をポンッて渡されて終わりだったのに。何が本物だよ。私‥‥‥! 土下座した時間が無駄すぎる。


 そんな私の内心に気が付かず、話はどんどん進んでいく。


「このちびっ子を養子とすることです。」

「そんなこと言って娘を嫁にもらう気でしょ! 」

「うちの娘は可愛いからな‥‥‥。」


 うん、何いってんだこの人達‥‥‥。全員アホな気がしてきた。まあ両親は親ばかで‥‥‥、少し鬱陶しいけど嬉しい。故郷の記憶が薄れてきていて親との思い出というのも薄れていっていった。でもこうやって久しぶりに愛情を受けれて‥‥‥、少し照れくさい。この暖かさを奪った勇者を絶対に許さない。

 でもあなたは別です。師匠。いきなりそんなこというなんてバカなんですか?率直にそう思いました。


「それなら100万ハウツ払ってください。即金で。」

「そ、それは‥‥‥。」


 そんなお金を軽々しく渡せるのは王侯貴族ぐらいだよ!? 師匠!! ただの村に住む人が持っているわけ無いじゃん!!


「では養子にもらっていきますね? 」

「いやいやいや。もらっていくな。待て! 一年あれば必ず返す! 」


 どうしよう。お父さんがかっこよすぎる。お母さんがお父さんに惚れた理由がわかった気がする。男前だ。すごく。そういえばお母さんが『お前のお父さんはかっこよかった』とポツリ呟いていたな‥‥‥。


「いえ、即金じゃないと受け付けません。」

「はあ‥‥‥、マジで何なんだ‥‥‥。この人‥‥‥。エリースも頭がおかしくなるし‥‥‥。」


 同意見だよ。お母さん。でもお母さん、許せないことがあります。エリースは頭がおかしくなっていません。


「それにあんた人族の子供なんて欲しがるんだ?」

「おや‥‥‥?バレてたか。」


 どういうこと?人族の子供?まるで師匠が亜人のような言い方‥‥‥。しかも師匠が、認めている‥‥‥? ‥‥‥え?


「え、人族、じゃないんですか‥‥‥? 」

「ああ。そうだが。バレたならこれを被っている意味もないな。」


 師匠が‥‥‥、亜人!?最初は信じられなかったが、そのフードを脱ぐと人族ではありえない『耳』が生えていた。狐が持つような獣耳だ。獣耳は‥‥‥、亜人の一つの特徴に当てはまる。



 __確かに師匠は亜人なのだ。


 そう思った瞬間、怒りで周りが見えなくなる。亜人が、汚らわしい亜人が私の視界にのうのうと‥‥‥!! その場にあったお茶を師匠、いや亜人に投げつけた。


「あ、亜人が何で人族の村に簡単に入り込めるの!? 」

「あ、亜人‥‥‥? ちびっ子、言っている意味がわからないぞ?」

「エリース? どうしたの?」

「黙れ! 人類の敵!! 神様に祝福されない汚れた生物が!! 」


 思い出されるのは時間が巻き戻る前、旅をしていたときに見た人族と亜人‥‥‥、人族以外の人形をした生物の戦争だ。『魔の皇帝』というのは亜人の王でもある。それを殺して人族に平和をもたらすのが勇者の役割だ。そのために私達は旅をしていた。


 それと同時並行で亜人との戦争に顔を出し、亜人を殺して人族に勝利をもたらすのも勇者の旅の役割だった。もちろん私も亜人を何人も殺した。亜人は神様の敵だ。汚らわしい生き物だ。現に私はこの目で人族を何人も殺す亜人どもを見た。奴らは殺さなくてはいけない‥‥‥!!


 亜人は私達とは違う生き物だ。神様に祝福されていない。その『教会』の大いなる教えを信じて生きてきた。


『教会』こそ‥‥‥、人族こそが神様に祝福されたものだ。だから亜人が生きているなんて許されない。


「亜人は‥‥‥、皆殺しだ。」

「ちょ、落ち着け!! エリース!! 」

「エリース!? 本当にどうしたの!? 」


 わけがわからない。なんでお父さんとお母さんは私を止めようとするの? あんな世界が不要とするゴミをかばおうとするの? そんなことしたら殺されるのはお父さんとお母さんだよ?


 そう、勇者のときみたいに、お母さんは‥‥‥。


「あああああああああああああああああああああ!!!!! 」

「不味い! また魔力暴走かよ! 」

「『また』? どういうことですか!? 」

「それはあとで! ちびっ子の両親は早く!! 神父を呼んで!! できるだけ早く!! おい!? ちびっ子! 落ち着け!! 」


 何で両親を! 神父様を! 軽々しく口にするの!! 亜人風情があああああ!!!!!! 魔術!!!!! 魔術を!!!!!! 打ち込んでやるんだ!! 敵に!!


「ちびっ子? ちびっ子!?」



 あれ‥‥‥。目の前が‥‥‥、真っ暗に‥‥‥。


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