n=54 忽然と客の消えるユニクロ

 vさんが幼い頃、親に連れられ服を買いに行った時の思い出。


 親と一緒に選んだ服を抱えて、試着室に向かうvさん。

 細長い通路を挟んで、左右に試着室が連なっている。

 その一角を選び、カーテンを開けて試着室へ。


 カーテンを閉めて、鏡の方を向き直る。

 鏡がない。

 元々鏡があったであろう場所には、木製の扉がはめ込まれている。


 幼いvさんは謎の使命感を感じ、その扉を開いた。

 扉の向こうには薄暗く細長い道が続いている。

 洞窟のようなそこへ、vさんは足を踏み入れた。


 奥の方にぼんやり光が見えた。

 vさんはそれを追うように歩みを進める。

 距離感を掴めないまま歩き続けると、一瞬くらりと目の前が歪んだ。


 辺りが明るい。左右前の三方を囲む白い壁。振り返ると、鏡。

 そこは試着室だった。


 焦ったvさんがカーテンを開く。

 ガヤガヤとした騒音。

 自分が試着室から出てくるのを待つ、親の背中が見えた。


 元の部屋に服だけ置きっぱなしになってて。通路挟んで反対側の試着室にワープしてたとしか。

 vさんはそう語った。


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