n=52 神隠し
tさんが、幼い頃の写真を整理していたときのことだ。
不自然な写真が一枚、見つかった。
地元の遊園地らしき場所をバックに、幼い自分が満面の笑顔でピースしている写真だ。
そこに写った自分の姿に、不審なところはない。ただ無邪気にはしゃぐ子供といった様子だった。
不自然なのは写真の構図だ。
自分を写真の中央に収めず、少し右にズレた位置で捉えている。
そのせいで左半分には背景の遊園地しか写っていない。
どこか空虚な印象を与える写真だ。
撮影者は、たぶん父親だろう。
しかし、自分の父は一眼レフを何台も買うようなカメラマニアだ。
こんな不自然な構図の写真を撮るとは思えない。
なら写真を撮ったのは母親だろうか。
それもおかしい気がする。
母は多忙で、幼い頃の自分を遊園地に連れていくような余裕はなかったはずだ。
そうなるとやはり、父が撮影に失敗したということになる。
そんなこともあるのだろうか。いや、あるのだろう。
納得したtさんは写真整理に戻る。
そして、もう一枚の不審な写真を見つけた。
遊園地の写真と同じくらいの年齢のときに撮られた写真だろう。
近所のバラ園をバックに、遊園地の写真と同じように、画面真ん中より右にズレた位置で自分が笑っている。
その自分の立ち姿が不自然で、気持ち悪かった。
左腕だけを横方向へ突き出し、半円を描くように手を垂らしたポーズを取っている。
それもごく自然といった顔で。
写真を眺めて数分。
電撃が走ったかのように、閃きが脳を襲った。
これは、肩を組んでいるんだ。
そう思った瞬間、すべてが理解できた気がした。
バラ園の自分は、肩を組んでるだけ。組む相手が消えてるから不自然に見えた。
バラ園と遊園地の写真どちらも、自分の写ってる位置が真ん中よりズレてるのは元々もう一人隣に立っていたから。
誰かもう一人、家族がいたんですよ。神隠しみたく、ある日突然存在ごと消されちゃったから写真にも記憶にも残ってないだけで。
いたんです、きっと。
tさんはそう語った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます