n=48 廃屋
pさんの家の近所には、一軒の廃屋がある。
朽ちかけの土壁に錆び切ったトタン屋根を被せた、何年放置されているのかもわからない廃屋だ。
少なくともpさんが物心ついた頃には、既に廃屋として存在していたという。
pさんは自宅から職場まで自転車で通勤しているのだが、その経路上に件の廃屋がある。
そのため、毎日嫌でも廃屋の前を通らなければならない。
住宅街から少し離れた場所に位置する廃屋、その周りは空き地や畑ばかりで、ほとんど人気がないのだ。
朝はともかく残業帰りの夜中などは、どうしてもうっすら恐怖を感じてしまうという。
ある日のことだ。
自転車を走らせていると、廃屋のある方から声が聞こえてきた。
若者たちの声だ。
ちょっとヤンチャしている高校生か大学生の集団だろうか。複数人の笑い声や叫び声がよく響いている。
普段とは違った種類の恐怖を覚えながら、pさんは廃屋の前を素早く走り抜ける。
そのときチラリと廃屋の方を伺った。
たしかに若者たち複数人が廃屋に入り込んでいるようだ。
トタン屋根と土壁に空いた穴の数々から、眩く白い光が漏れていた。
自宅にたどり着いて一息ついたpさんだったが、そこからも若者たちが騒ぐ音が聞こえてきた。
元々閑静な場所なので、音がよく伝わるのだな。
そう思いながらも、仕事の疲れもあってか、pさんはすぐ眠りについた。
翌朝のことだ。
いつも通りの通勤中、なんとなく廃屋の中が気になった。
昨日の若者たちが何かよからぬことをしていないか確認せねば、そんな風に自分に言い訳しながら、土壁に空いた穴を覗き込む。
目に飛び込んできたのは、パンパンに膨れたゴミ袋、タンスなどの家具、不法投棄されたと思しき電化製品、ボロボロの衣服の塊、その他諸々。
纏めて一括りにしてしまうと、ゴミだらけだった。
床を埋め尽くす程度ではない。パズルのようにゴミが詰め込まれ、空間を圧迫している。
他の方向から中を覗いてみても、同じだった。
つまり廃屋の中には、若者複数人が入り込んで騒げるようなスペースはなかった。
でも、たしかに複数人の気配、声、物音がしてたはずなんです。光が漏れてるのだって見ましたし。
pさんはそう語った。
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