n=46 スニーカー

 nさんはあるマンションで管理人をしている。

 管理人と言っても、ただの雇われ管理人。マニュアル通りに共用部分の清掃や、設備の点検を繰り返すのが仕事だ。


 そんな日々の中、少し違和感を覚える出来事があった。

 マンション1階の共用廊下を清掃しているときの事だ。

 枯れ葉相手に悪戦苦闘していると、視界の端に何か赤いものが掠めた。

 チラリとそちらへ顔を向ける。真っ赤なスニーカーだ。

 スニーカーが、自身の靴紐で廊下の手すりに括り付けられている。


 一瞬、共用部への私物の放置として注意しようかと思った。

 だが、部屋の住人が洗ったスニーカーを乾かしているだけだろう。わざわざ注意して波風立てる理由もない。長期間放置するようなら、その時になって注意しよう。

 そう考えを改めたnさんは、赤いスニーカーを再び視界の片隅に追いやり、清掃を続けた。


 それから数週間後、2階の廊下の手すりに括り付けられた赤いスニーカーを、nさんは見た。

 そしてそれは、一階の廊下に吊られていたスニーカーと同じものに思える。

 少し気味悪く感じたnさんだったが、みんな買うくらい流行りのスニーカーなのだろうと自分を納得させた。


 その数週間か、数ヶ月後。

 3階の廊下の手すりに、赤いスニーカーが吊られていた。


 そのまた数週間後。

 4階の廊下の手すりに、赤いスニーカーが吊られていた。



 あのスニーカー、最上階まで到達したら何か起きそうで。

 でも他人様の物だろうし、勝手に紐解いて持っていくのは怖いし。

 私、どうすればいいんでしょう。

 nさんはそう語った。


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