n=45 愛猫

ある日の朝、mさんの飼い猫が死んでいた。


狭いマンションの部屋の、狭いトイレの個室の中だった。愛猫が力なくグッタリと地面に倒れ込んでいる。

いくら揺すっても、何の反応も返ってこない。閉じられた眼が、明確な死を感じさせる。


このままトイレに放置はできない。リビングに連れて行ってやろう。

そう思ったmさんは、愛猫の腹の下に手を差し入れ、抱えるように持ち上げた。


いや、持ち上げようとした。


持ち上がらないのだ。


愛猫が異様に重い。

意識がないことや、死後硬直が原因かと思うが、それにしては重すぎる。

体感だが、成人男性くらいの重さがある。


そのまま数分格闘を続けたが、結局地面から動かすことすら出来なかった。

そうしていると、耐えられない尿意が生じる。

とても足元で愛猫が死んでいるトイレを使おうとは思えなかったmさんは、仕方なく近くのコンビニへ出掛けていった。


コンビニでトイレして帰ってきたら、普通に持ち上げられる重さになってたんですよね。

mさんはそう語った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る