n=42 短期バイト

 jさんが高校を卒業して数年、ブラブラしていた頃の体験。


 財布の中身が怪しくなってきたjさんは、短期バイトをやることにした。

 友人に紹介してもらった工場のバイトだ。

 コンベアに乗って流れてくる機械を段ボールに詰めるだけの楽な仕事だよ、という友人の言葉を信じて、jさんはバイトに申し込んだ。


 申し込みから数日、メールで採用の通知が届いた。

 そこに書かれた日時に、指定の場所へ向かう。

 わかりやすく工場工場とした工場だった。中に入って事務スペースへ行くと、禿げた男が仕事の説明をしてくれる。


 友人の言う通り、楽そうなバイトだ!というのが、説明を聞いたjさんの感想だった。

 20分に1回、コンベアが流してくる30cm四方の金属箱を段ボール詰めするだけで、時給1500円。しかも、荷物が流れてこない時は何をしていても良いという。


 最高のバイトだとウキウキ気分で働き始めたjさんだったが、数日するともう辞めたくなってしまった。

 原因は幻視だ。

 コンベア近くにパイプ椅子を広げて座り、荷物が流れてくるのを待っている間はなんともない。

 しかし、コンベアに乗って金属の箱がこちらへ流れてくると、それに連れて視界がぐにゃぐにゃと歪む。

 まるで高熱を出したときのように、目の前のもの全てピントが合わなくなる。

 色も距離感も掴めない中、なんとかダンボールに金属箱を詰め終えると、スッと視界は元に戻る。


 結局、3日目で音を上げて逃げるようにそのバイトを辞めてしまった。

 バイトを紹介してくれた友人に相談しようかと思ったが、何と言い出せばいいか分からず、未だに何も話していないという。


 今でもそのバイト、募集してるんすよね。絶対ヤバいから二度とやらないですけど。

 jさんはそう語った。

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