n=43 ひらがなの町

 kさんの実家がある田舎では、町名以下の住所を全て平仮名で書く。


 例えば普通なら「東京都 西多摩郡 奥多摩町 氷川215-6」と書くところを「東京都 西多摩郡 おくたままち ひかわ215-6 」で書く、といった次第だ。


 kさんがそれに疑問を覚えたのは、町外にある中学校へ通い始めた頃だった。

 職業体験のお願いを手紙で書いたのだったか、きっかけは覚えていない。


 自分の友達は住所を全部漢字で書いている。それなのになぜ自分だけ平仮名まじりで住所を書いているのだろう。

 一度違和感に気付いてしまうと、それがkさんの脳を離れなくなった。


 その疑問を解消するため、両親や近所の大人たちに理由を聞いてみた。


 返ってきた答えは「漢字で書くと、良くないことが起こるから」だ。


 なぜ良くないことが起きるのか、その良くないこととは何なのか、誰も答えてはくれませんでした。

 kさんはそう語った。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る