n=37 祖母の電話

 eさんがまだ幼い頃、一人で留守番をしていたときの思い出だ。


 たしか、母親の友人の結婚式と父親の出張の日が被ったのだった。それで人生で初めて、夜までの留守番をすることになった。


 夕方、母の用意してくれた晩ごはんをレンジで温めてから食べ、風呂に入る。すると、すっかりやることもなくなってしまった。

 両親に言われた通り、戸締まりをチェックしたら寝てしまおうか。そう思っていると、リビングの電話が鳴った。

 母親の残していった書き置きを片手に、電話の前に立つ。

 書き置きには『知ってる番号にだけ出ること、知らない人からの電話は無視』と書いてある。

 電話の文字表示を見ると、『おばあちゃん』。県外に住んでるおばあちゃんからの電話だ。


 eさんは迷いなく受話器を取った。だが耳に当てても何も聞こえてこない。

 しばらくそのまま待っていると、小さな囁くような声がする。

『おばあちゃんねぇ、もう死んじゃうからねえ。死んじゃうからねえ、お別れだねえ』

 その声はなぜか、受話器を当てていない側の耳から聞こえてきた。


 eさんは訳も分からない恐怖を覚えて、受話器を電話に叩きつける。そしてそのまま両親が帰ってくるまで、布団を被って寝てしまった。


 次の日、母親に確認してもらったところ、祖母はそんな電話はしていないという。たぶん嘘は言っていない。


 というか、ウチのおばあちゃんまだピンピンしてるんですよねえ

 eさんはそう語った。

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