n=36 帰り道
dさんが中学生の頃の話だ。
あまりクラスに馴染めていなかったdさんはある日、一人で下校していた。
dさんの前方には、5人で談笑しながら下校しているクラスメイトがいた。名前もはっきり覚えていないが、たしか野球部の子たちだ。エナメルのセカンドバッグを担いで「あの監督マジでヤバい」だの「次の練習試合は楽しみ」だの語り合っている。
別に一人は嫌いではないが、目の前で友達同士楽しく話している様を見せられると、自分が惨めに思えてくる。dさんは八つ当たりのような怒りの感情を抱いてトボトボと歩いていた。
横道から、見覚えのない制服姿の男が出てきた。自分の知らない生徒だ、たぶん先輩か後輩だろう。そう思っていると、前方の集団はその男と合流して仲良さそうに話し始めた。
そして、その談笑は異常なものだった。
先程までと変わらず楽しそうに喋っているのだが、会話に出てくる単語が一つとして聞き取れない。「ぱ」や「ぽ」という音に似た破裂音が飛び交う、とても日本語とは思えない会話が繰り広げられている。あえて文字に起こすなら「ぱぱぼぱばばば」のような具合だ。
急に異国に放り出されたようなショックに襲われたdさんは呆然としながらも、歩みを進めることしかできなかった。
前方の集団と距離を取り、そのままどのくらい歩いたのだろうか。
気付くと途中で混ざってきた生徒は消えていた。前方の集団は、理解できる日本語で談笑している。
薄っすらと気味の悪さを感じながらも、そのまま何事もなく帰宅した。
途中で混ざってきた生徒の顔、不思議と思い出せないんですよね。
dさんはそう語った。
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