n=28 背後霊じゃない

 ¥さんはある病院に勤めている。

 その病院では節電のため、廊下に人感センサ付きの照明を採用している。しかも予算をケチっているのか、照明の数が少なく、照明同士の間隔がとても広い。結果として、その病院の廊下は妙に暗かった。


 ある日の明け方、仕事を終えた¥さんは職員用出口を目指して部屋を出た。

 日は未だに上らず、廊下は薄暗い。そのうえ、人もまったくいない。

 照明が床に下す光を追いかけるように、ゆっくり歩みを進める。


 なにか、現状に違和感を覚えた。

 廊下の天井には一定の間隔を空けて、人感センサ付きの照明が取り付けられている。そしてそのセンサが人間を感知すると、照明が灯る。つまり、自分の歩みに対して、照明はワンテンポ遅れて灯るはずだ。

 ¥さんはそう考えた。


 しかし現実はそうなっていない。自分の数m先で、既に照明が灯っている。まるで自分の前方に何かいるかのようだ。



 私には背後霊ならぬ、前方霊が憑いてる。センサはそれに反応してるんだ。さすがに荒唐無稽ですかね。

 ¥さんそう語った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る