n=22 夢見心地

 Vさんは寝る時の姿勢に拘りがある。体の左側面をベッドに付けて、横を向かないと眠れないのだ。

 その癖は幼い頃からのもので、Vさんの母親などは我が子を仰向けで寝るよう熱心に教育したが、効果はなかった。


 そんなVさんだが最近、仰向けで寝られないかと悩んでいる。別に横向きになって寝ると骨が歪むだとか、内臓が偏るだとか、そんなことを気にしているわけではないという。

 横を向いて寝ると、無防備な背中を晒すことになる。それがVさんは嫌なのだ。


 毎日のことだ。眠りの浅くなる明け方、Vさんは、細い指が自分の背中を這う感覚でうっすらと目を覚ます。誰かと同棲している訳ではない。一人暮らししているのにだ。

 部屋の物が触れている感触ではない。明確に人間の指が背中に触れている感触。

 その指が動き回り、自分の背中に何かしらの文字か記号を描く。少なくともひらがなやアルファベットではない、もっと画数の多い何かだ。

 はっきり意識が覚醒すると、その指が這う感覚は消えている。夢現としている間だけ、その指を感じるのだという。


 あれにはもう飽き飽きだ。絶対仰向けで寝てやる。

 Vさんはそう語った。

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