n=20 記憶にない思い出

 Tさんが年末に実家を大掃除したときの話。


 早々と自室の掃除を終えたTさんは、リビングのテレビ台周辺を整理し始めた。

 そこには、父の趣味のドラマDVD、地上波放送を録画してダビングした映画のDVD、Tさんが幼い頃に撮影したホームビデオを焼いたDVD、母の趣味のテクノ音楽CD、その他諸々、多種多様な電磁的記録媒体がムチャクチャに詰め込まれている。

 それらを取り出して分類していると、テレビ台の収納の奥から一台のビデオカメラが出土した。その近くに転がっていた充電ケーブルを繋いでやると、充電中を示すオレンジ色のランプが灯った。


 Tさんは興味本位で液晶モニターを開いて電源を入れてみた。すると充電ランプの横の電源ランプが緑に光り、液晶モニターに企業ロゴを写した起動画面が灯った。

 かなり昔の機種らしく液晶はボヤボヤだ。本体に録画された映像を確認したところ、Tさんが子供の頃に撮影したと思われる数分の映像だけが残っていた。


 サムネイルは、公園をバックにして小学生くらいのTさんと今より若い両親が、横一列に整列したものだった。

 何の映像だろう、Tさんに覚えはなかった。また同時に、Tさんは少し妙だなとも思った。

 Tさん一家はTさん、父親、母親の計3人しかいない。父方の祖父母は早くに他界、母方の祖父母は県外にいる。他の親類も軒並み県外で、この映像を撮ってくれそうな人がパッと思い浮かばなかったからだ。


 うっすら疑問を抱えながら再生ボタンを押す。ザーッという風音と共に、画面の中のTさんたちが動き出した。しかし、その動きは尋常のものではなかった。

 口を一文字に結んだ真顔のまま、手足をバタバタ振り、飛び跳ねていた。かと思うと急に直立不動になる。体全体を捻り頭から地に伏せたりと、異様な動きを家族全員がしていた。


 咄嗟にTさんは再生を止めてしまった。こんな気持ち悪いことをした思い出は、Tさんの脳には一切なかった。


 しばらくの逡巡の末、ビデオカメラを元の場所に戻した。気味悪くて、家族に何なのか聞く気にもならなかった。


 その映像、ちょっと手ブレしてて。ってことは誰か撮った人いるんですよね。想像すると気味悪くて。

 Tさんはそう語った。

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