n=19 階段

 Sさんがオフィスで体験した話。

 Sさんの職場はビルの5階にある。だから普段はエレベーターを使っていた。

 しかしその日は朝からビル全体にメンテナンスが入って、エレベーターが使えなかった。Sさんは仕方なく階段を昇ることにした。


 階段は全体的に照明が少なく薄暗い。朝早くなこともあって、人気もない。自分が階段を踏むコツコツという音だけが耳に残る。

 照明になるのは、小窓から射し込む仄かな太陽光と、非常口の誘導灯の緑色の光だけだ。

 4階と5階の間の踊り場に立った時だ。階上の誘導灯のピクトグラムが視界の端に入る。緑色の棒人間が白い出口へ走る、あのピクトグラムだ。

 Sさんはそれに謎の違和感を覚えた。顔を上げ、誘導灯を視界の真ん中に捉える。


 誘導灯の中、ピクトグラムの棒人間がgifアニメのように動いている。シャカシャカと手足を振って、その場で走っているのだ。


 Sさんの口から、あれ?という音が漏れた。

 誘導灯にアニメーション機能なんてあったけ?そういう新型なのか?


 首を傾げながら階段を昇りオフィスに辿り着いたSさんは、モヤモヤとした疑問を抱えて仕事を始めた。


 その後、いくら調べても棒人間が走るアニメーション機能付きの誘導灯など見つからなかったし、ビルの誘導灯の棒人間も動かなかった。


 怖いような可愛いような、そんな感じです。

 Sさんはそう語った。

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