n=10 こっくり

 Jさんが小学生のときの体験。

 ある日、なぜか友達数人とこっくりさんをやることになった。たしか友達の一人がそのような本を読んだのがきっかけだ。

 放課後の教室の隅、Jさん達は卓を囲む。机の上にはノートを破いて作った、こっくりさん用の五十音表。その表の鳥居マークの上に、10円玉が1枚乗っている。

 こっくりさんに乗り気なのは友達の中でも1人だけで、Jさんを含め他の者達はくだらない遊びとしか思っていないようだった。


 10円玉の上に指を乗せ、それを見つめる一同。

 そうしていると、10円玉が高速で動き始めた。五十音の上を縦横無尽に行き来する。

 その動きを見つめ、文字に直すとそれは『きむちなべ』だった。

 えっ、なにこれ?まだ話しかけてもないのに、誰かふざけてる?

 そう思ってJさんは顔を上げた。

 机越しの友人達の顔はなぜか一様に笑顔になっていた。無理に頬の肉を持ち上げて笑わせたような不自然な笑顔だ。そのまま何も喋らず、動き回る10円玉をじっと見続けている。


 その日の晩御飯、キムチ鍋だったんですよね、だからなんだって話なんですけど。

 Jさんはそう語った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る