n=11 スキー場
とある冬の日のことだ。マンションの部屋で一人、Kさんはコタツに篭ってTVを眺めていた。
テーブルの上には食べ終えた一人用の鍋。これを片付けないといけないが、そんな気力はKさんの胸中のどこにも存在しなかった。
大して面白くもないTVのニュース番組が目の上を滑っていく。天気予報が終わって地方のニュースが始まる。聞いたこともない地元企業が新素材の開発に成功したとかでインタビューされている。その音声を子守唄に、Kさんはうつらうつらとしていた。
映像が切り替わる。次のニュースはスキーブームについてだ。オリンピックで日本人が結果を出したせいか、今年はスキー場の利用者が多いそうだ。
『〇〇選手に憧れて始めました。難しいけど楽しいです』
スキーウェアに身を包んだ若い女が、そんな当たり障りのないコメントをしている。そしてその背後には、なるほど確かに人がごった返している。
そんな中、プラスチックのソリで滑る子供が目に入った。
それを見た瞬間、Kさんの眠気は吹き飛んだ。
小さなソリに体を収めている様は子供なのだが、その顔がどう見ても老婆だ。
皺まみれの肌、垂れた頬、ほとんど閉じられた生気のない目。顔を構成する要素全てが、加齢し切っているのだ。
Kさんが驚いている間に映像はスタジオに切り替わり、次のニュースが始まった。名産の果物の出荷量がどうたらというキャスターの声が耳を素通りしていく。
見間違いじゃなく、あれは確かに老人の顔でした。
Kさんはそう語った。
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