n=9 寺の猫

 Iさんの小学生のころの話

 通学路の途中に古い寺があった。その寺の裏の林を通り抜けると近道になるので、Iさんはあまり良くないこととわかりつつも、いつも利用していた。


 そんなある日のことだ。左右を林に囲まれた道。その敷石を踏み締め歩いていると、視界の隅の林から何かが飛び出した。

 それは黒い猫だった。毛並みのいい黒猫が、Iさんの行く手を阻むように座り込んでいる。

 横に避けて進もうとすると、猫がこちらを向いて口を開ける。

「めえぇえーっ!」

 そう言語化するしかない鳴き声を上げた。

 訳も分からずIさんは駆け出した。

 後で落ち着いて思い返してみても、あの猫の鳴き声は羊のようだった。


「黒猫に横切られると不幸に見舞われる」的な体験談なんですかね、これ。

 Iさんはそう語った。

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