n=8 落書き
Hさんが大学生の頃の体験だ。
きっかけはよく覚えてないそうだが、ある日Hさんは友達数人と心霊スポットへ行くことになった。
そこは山の中にある廃墟で、『ある人がそこで自殺した』だの『今でも時折女の啜り泣く声がする』だの真偽の怪しい情報がネット上で囁かれる程度には有名な場所だった。とはいえ、そこは元々とある観測所で、別段恐ろしい謂れがある訳ではない。ネット上に出回っている話は、廃墟と化して以降に広まったもののようだった。
Hさん達は『夜だと見つけられないかも』『夜の山は危ない』などと言い合い、真っ昼間に車を走らせて、そこを訪れた。
その廃墟は、ほとんど崖のような角度の坂の上にあった。施設が稼働していた頃には職員が利用していたであろう崩れかけの木組み階段を踏み締め、Hさんたちは這々の体で廃墟へとたどり着いた。
すると、せっかく来たのだからと仲間の一人が携帯で動画を撮り始めた。その仲間は映画好きで、まるでPOVホラーを撮っているかのように振る舞った。
コンクリ作りの廃墟の中に入り、部屋を一室一室覗いて行く。
しかし、特に不思議な物も不気味な物も見つからない。そこはただただ廃棄された施設でしかなかった。機材の類は全て運び出されたようで、ただ殺風景で変わり映えしない、コンクリに仕切られた真四角な部屋があるばかりだ。
最初のうちは盛り上がっていたHさん達だが、しばらくするとすっかり飽きてしまった。夕方が近づいたこともあり、誰が言い出すでもなく帰ることになった。
帰りの車内、撮影した動画を見返していた友人が真っ青な顔で『ヤバい』と呟いた。
彼の見せてきた携帯の画面には、部屋を見て回るHさん達の姿が映し出されていた。記憶通りだ。
ただ、見覚えのない落書きが壁にあった。
見て回った全ての部屋の壁に、青いペンキで『こがりね』と文字が書かれている。
こんなものが書かれていた記憶はHさんにはなかった。仲間たちも同じだった。
Hさん達はただ恐怖するしかなかった。
廃墟とか行っちゃダメだなって実感しました。
Hさんはそう語った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます