n=7 鈴の音

 Gさんが子供の頃、自宅で体験した出来事。


 土曜日の午後、Gさんは一階のリビングでテレビゲームをしていた。その日父親は仕事で、母親は体調が優れなく2階の自室で寝ていた。母の体調は心配だが、リビングでのびのびとゲームできるのがGさんは嬉しかった。Gさんの母は教育ママ的な側面があり、特にゲームに関しては厳しかったからだ。


 Gさんが好きなだけゲームを遊んでいると、ダダダダッという足音と共に母親が階段を駆け降りてきた。Gさんは咄嗟に、「ヤバい! ゲームしてるの隠さなきゃ! 」と思った。しかし当の母親はそんなものには目もくれず、驚愕と恐怖に満ちた顔でゼーハーと呼吸している。

 Gさんはさりげなくゲームの電源を切りながら、何があったのと母親に話しかけた。

 すると母親はゆっくり口を開いた。

「さっきまで寝てたら階段の下から鈴の音が聞こえてきた。なにか怖いものが階段を一段踏み締めるごとに鈴が鳴った。それが2階の自分の部屋に来る前に逃げないといけない。わかってるのに体は金縛りにあったみたいに動かない。どんどんそれが階段を踏み締めて近づいて来る。そのたびに鈴の音が聞こえる。2階の廊下までそいつが来たところで急に体が動くようになったから、急いで1階に逃げてきた。Gちゃんは大丈夫か。」

 話した内容は概ねそんなものだった。

 Gさんは恐怖した。母親が支離滅裂なことを言い始めたことにだ。

 何度も「大丈夫だった?」と聞いてくる母親に生返事をし、一日をやり過ごしたという。その日以降、母がその話をすることはなかったそうだ。


 たぶん、ただそういうリアルで怖い夢を見ただけなんでしょうけど、自分の母親が壊れたみたいでそれが怖かった。

 Gさんはそう語った。


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