n=5 シャッター街

 Eさんが中学生のときの話。

 Eさんの通う中学校は、自宅から自転車で15分ほどの距離にあった。

 ある夏の日。Eさんはいつも通り、自転車を走らせて登校していた。


 通学路の中ごろまで来ると、駅前の商店街に差し掛かる。

 商店街と言っても、大半の店はとうの昔につぶれ、シャッターが下りている。そんな中、シャッターを上げた営業中の一軒が、少し先に見えた。

 昭和の香り漂う洋服屋だ。目を細め、ショーウィンドウを伺うと、古臭い花柄のワンピースを着せられたマネキンが立っている。そのマネキンの顔には、なぜか細かく目鼻が描きこまれている。絵具で塗りつぶしたような真っ黒の目、変に陰影が強調された鼻と唇、顔全体が不気味だ。


 Eさんの胸の奥で、仄かに不安が生じた。

 あんな店、前からあっただろうか。

 あんな気味の悪いマネキン、前からあっただろうか。

 そう悩んでも、明確な答えは脳に浮かばない。

 気味が悪いからさっさと通り抜けてしまおう。そう思い、ペダルを踏む足に力を込める。

 どんどんと加速していく自転車。

 商店街のシャッターが視界の端を流れていく。


 そして、件の洋服屋の横を走り抜ける瞬間、マネキンがギロリとこちらを見た、気がした。

 ただそれだけなんですけど、すごく気味悪くて、それからその道通ってないです。

 Eさんはそう語った。

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