復讐心と自称勇者
私は国の滅亡の危機に何度でも蘇り肉体を持つ者では不可能な程に穢れを溜め込める”魂”を用いた兵器を創り出す事に成功した。
異界の魂。
それも擦り切れず穢れをあまり取り込んでいない平和ボケした若い魂を人形に定着させる。
健康的で苦労を知らず事故で死んだ魂なら言う事がない。
ここまでならば私以外の死霊術師でも可能である。
しかしそれだけでは戦う事などできる筈もなくただ闇雲に異界の秩序を荒らすだけで終わってしまう。
だから私は殺した魔族の穢れを取り込み成長する仕掛けとそれを理解させる為の記憶改竄を異界の魂に仕込んだ。
結果は勇者を自称しチートという謎の言葉を発する兵器の誕生である。
彼曰く、日本という国では創作物でよくある設定らしい。
女神に力を貰いこの世界を救って欲しいという設定を鵜呑みにしている様は滑稽であった。
特に誰でも倒せる低級な魔物に決死な覚悟をしながら向かって行く姿が。
しかし今では私達の国を守る為にボロボロになってまで上級魔族を単独撃破している。
死んで復活する仕組みは単純で彼の魂が異界に戻ることを妨げ別の人形に定着させ再起動させるだけである。
死霊術師であるなら誰でも可能な術式である。
そしてその行為が彼の魂を擦り切れさせることを私は何度もこの目に焼き付けてきた。
彼の記憶の混濁や感情の希薄化が取り返しのつかない所まで進行している。
廃人の様に感情を動かさずに再起動する様は凡ゆる禁忌に触れてきた私でも痛々しく映り罪悪感を抱く。
そして私が何より危険視している事は穢れを取り込みすぎている事である。
最早生物の頂点として君臨する彼だが既に穢れを取り込める許容範囲を大きく逸脱している。
穢れを抑えきれず暴走すれば彼は我々の世界全てを滅ぼしかねない。
せめてアイツを滅ぼすまでは持ち堪えて欲しいがいざとなればこの手で彼の魂を破壊しなければならないだろう。
彼の魂を無事に異界に帰す為にも……
「神官様。悲しい顏をしないでください。僕なら大丈夫です。この通り」
再起動後の痛々しい姿の後につい心を抉られ悲痛な表情をしてしまう私を気遣い彼は心配をかけない様に感情のある振りを続けている。
自身の魂の変容に気付かない筈がない……
限界である事も理解しているのだろう……
私は神官などという高尚な職に就いていません。貴方の魂を異界から引き摺り込み自身の復讐の為に何度も貴方を死なせた死霊術師です。
そう言えれば私の重荷は軽くなるのだろうか?
本来の口調で私がお前の魂を弄った張本人だ。
そう言えれば私の心は救われるのだろうか?
「お気遣いありがとうございます。私も大丈夫です」
アイツさえいなければ彼に会う事もなかっただろう……
聖書だと彼に嘘をついた死霊術の触媒を握り締める。
罪の重さにこんなにも苦しめられることが無かっただろう……
アイツさえ……
アイツさえ……
アイツさえ……
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