Come to an end?

 本日の部室は土のにおいがした。

 いや、園芸部員だからといって、それが心地いいと思っているわけではない。多少鼻がばかになってきたが、目の前に園芸肥料が積まれている埃っぽい物置小屋というのはどうかと思う。

 もっと優雅な、ひじ置き付きの木製ソファでも置いてあるところがよい。

 実際においの原因も昨日の雨のせいで湿気がたまっているせいだろう。居住性とやらからはみ出すぎている。

 ただし、校舎の端の端、裏の柵を超えれば河川敷に出てしまう隠れ家のような立地はグッド。今日も今日とて校則の範囲を軽く飛び越えたお茶セットで和気あいあいとお茶会、となるはずだった。

 残念ながら今は四人の部員全員が下を向き、シャーペンを走らせる乾いた音をコンクリートに響かせている。

「run into偶然出会う、take to好きになる」

 前から声が漏れているようで少し目を上げた。

「persist in固執する、look into調べる」

 きっとこいつはアホだろう、誰もがそう思う能天気な顔はどこえやら。前のめりに机をにらみつけブツブツ呟く同級生の夏目。

「break into押し入る、turn down拒絶する」

 発音しながらひたすら書く、一番一般的であろう暗記法で攻めている。部室で一緒に勉強するのはよくあることだが、こんな表情もするのだと改めて感心してしま――。

「run overひく、make off逃げる、turn out判明する、give in to服従する」

「ちょっと待て、なにその意味深な熟語の羅列は。サスペンス映画でも始まりそうなんだけど」

「茅野うるさい。集中させて」

 もっともなので、だまるしかなかった。

 夏目の隣に座る後輩の楠も、顔を上げ桜のチャームが付いたピンクのペンを口元にあてる。

「cancer(癌)」

「新展開? いや楠さん、続けなくていいから。そういうゲームじゃないから」

 可愛らしいアニメ声ながらだいぶ物騒な発音だった。

 ここ最近僕にも冗談交じりで話してくれるのはうれしいが、利口なせいか大喜利にも妙に鋭い。

 そしてなんとなく最後の一人、左横にいる方波見に目をやると、ずいぶんと真剣にペンを走らせていた。

「guilty有罪、guilty有罪、guilty有罪、guilty有罪……」

「そっちもか。怖いよ。なんか狂気じみてて怖いよ」

「茅野」

 夏目が大きなあくびをしながらこちらを見る。

「come to an end?(終わる?)」

「……I see(了解)」

 結局今日もお茶会が始まった。

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