定例報告

「そのあと楠の種も蒔いて、土をかぶせて、水をスプレーして種蒔きは終了。いやあ、怖かったね。心臓の音ってあんなにしっかり聞こえるもんなんだね。楠にも聞こえてたかな? それだとだいぶつらい」

 ベッドの主は眼を閉じていた。

 それ以外、あいかわらず病室は変わらない。

 僕がスプレーしたチランジアが湿っただけ。それもまた乾いて白いモフモフに戻り、同じ絵に返るのだろう。

「あれでよかったと思う? 水菜以外まだ芽も出てきてないから種は謎のまま。発芽しないなんてことはないと思うけど、それでも不安だよね。

 でも、水やり当番の楠は、少しだけ楽しそうに見えたよ。芽も出てないし、水をたす必要もないのに毎日温室に見に行ってる。僕が言うのもおこがましいかもしれないけど、新しい挑戦のために背中を押してあげられたのかな」

 白いのに、暗い部屋。

 赤いソファに背を預け、またすぐに起き上がる。

「もし桜葉さんなら、迷わず種を蒔いていた気もする。僕みたいにスマホにかじりつくこともなく、『大丈夫だよ』て簡単に言えたと思う。それも様になっていて、楠も迷うことなくうなずけて……。

 ずるいな、そんなことできるの」

 カバンの中から透明のファイルを取り出す。中には画びょうを抜いた当番表が入っており、そのまま閉じた瞳の前に掲げた。

「水やりローテには入れなかったけど、だからって部活サボるのはやめてよね。部長なんだから早く仕事して」

 やはり瞳は閉じられていた。

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