定例報告

「そんなわけで、新入部員を二人確保できました。去年よりもいち学年の人数は減っちゃったけど悪くはないでしょ。あとは幽霊部員にならないでくれるといいな」

 皮肉がかったセリフを言ってしまい少し嫌な気もしたが、彼女はいつも通り表情を変えない。首の固定具に顎をのせ、半開きな口のまま瞳を大きく開けて天井を見ている。

 スマホの画面を見やり、画面をおくり、また目を上げた。

 病室は時間が止まったように変化を見つけられなかった。彼女の顔を埋める包帯やガーゼ、鼻のチューブやそれを止めるテープまで真っ白のまま。

 ほこりや汚れがもう少しあればまだいいのだが、すべてが新品のようで違和感が強い。

 チランジアもなにも変わらない。トリコームの繊毛で真っ白である。霧吹きで湿らせると、本当は緑の細長い葉であることがわかった。

 どちらの姿も、とてもきれいだ。

「入部してくれた二人を見ていたらさ、去年の自分よりもずっとしっかりしてそうで、なんかやるせなかった。

 覚えてる? 僕が見学に来たとき、先輩たちが遅れてて、はじめ二人きりで話してたよね。こっちは脈がアホみたいに速くて吐きそうだったのに、そっちはなんか余裕があって、手玉に取られてたんだなって今なら思うよ。入部するまでずっと先輩だと思ってた」

 後々駒草先輩との会話で、中高一貫生で一年先に入部していただけということがわかった。それを聞いたとき顔がめちゃくちゃ熱くなったのをよく覚えている。

「その後は駒草先輩の口車に乗せられて、他の部活見学することなく入部して、まあそれでも悪くなかったって思っているよ。駒草先輩が予想以上にウザかったこと以外はね」

 笑ってみせたが、やはりここには一人しかいないと感じてしまった。

「種の件はどう思う? コーティングしてある種だから、そんなに手を加えなくても発芽するような気もするけど、発芽したらもう後戻りできないし、時季を間違えていたらろくに育たないまま枯れるだけだし、どうするのが正解かな?

 入部してくれたんだし、持ち込んだ本人と相談するべきことなんだろうけど、それでどうにかなるか。まず、彼女がなんで入部してくれたのかもよくわからないし」

 また、スマホの画面を見た。フリックを繰り返し画面をめくる。そしてまた元の画面に戻した。

「種のことは、来週までに答えを出しておくよ。おもしろい報告するから、待ってて。とりあえず、新生園芸部はこんな感じなんでよろしく!」

 スマホを彼女の目の前に掲げる。昨日温室の前で撮影した集合写真を映していた。

 めいっぱい開いたピースサインをする夏目と相変わらず笑顔を作りきれない僕の間に、ストレートな笑顔をした二人が並んでいる。駒草先輩も入ればよかったのに、三年生は撮影役が通例らしい。

 そして夏目の隣には桜葉さんが小悪魔的な笑みを浮かべていた。小一時間かかったが、改めてみるとまあまあ自然に合成できていると思う。

 それを見る彼女に反応はなかった。いや、見てくれているのかもわからない。スマホのずっと先を見通しているのかもしれない。

 だんだん疲れて腕が震えてきた。

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