アブラナ(前編)
黄色の花
罪悪感と敗北感を覚えながら弱々しい陽を受ける黄色の花に水をやった。
特有の細長いギザギザの葉っぱとその中心から生えるこれまた細長い
柔らかい緑にさらに柔らかい黄色が点々とつくその様子は、もしこれが広大な野原に群生していて、それを遠目から見ていたとすれば、心地よい春の訪れを感じさせてくれたこと間違いなしである。
しかしここにいるのは無作法に伸びきった二株だけ。しかも、数は多いが一つ一つの花が米粒サイズのため貧相な印象がぬぐえない。
「これは、違うよな」
独り言を少し大きめの声で言ってみる。もちろん、今日は部活が休みで誰もいないのをわかったうえだ。
二段階予想が外れた。
まず一つ、もともとは冬にも育つ食べ方も豊富な野菜を植えたかった。水菜という選択は順当だろう。鍋でもすればいいと思ったのだ。
しかし実際鍋をしたのは一回だけ。一緒に育てた小ぶりな大根と白菜がなくなると、水菜のためにほかの食材を調達する気にはなれなかった。そして、鍋以外の消費方法が出てこなかった。
そうこうしている間に気温が上がり、葉のつかない茎がするすると生えて細丸の蕾ができ上った。いわゆる薹が立ってしまったのである。
食べてもおいしくなさそうだし、もうなすがまま花を咲かせた方がいいのではないか。これが二つ目の予想。
調べると水菜の花もおおよそ菜の花が咲くらしい。菜の花なんてけっこう雑な名前で、本当はアブラナの花をいうのだが、近縁の小松菜もほうれん草もブロッコリーだってほぼ同じ花を咲かせる。とりあえず僕には見分けがつかない。
花より団子の我が部の方針とは異なる。それでもいやいや食べるよりもステキな結果になるのではないか。
そんな議論が園芸部内であったというほどでもないのだが、結論としてはそのまま水菜は育ち続けた。
そして今、花瓶に差せば春の訪れを告げてくれるような花に、ならなかった。菜の花畑とは数の暴力であったことがよくわかる。
でもまあ、菜の花には違いないし、咲いてくれたのだから文句は言うまい。
スマホを取り出して写真を撮ってみる。
三割減といったところか。ただでさえ貧相なのに暗いし小さいしまるで映えない。多少いじくろうか。
五分ほどで加工アプリには飽きた。限界が思ったよりも近いところにあった。というか、昨日インストールしたばかりでこれ以上どういじくればいいのかはわからない。
スマホをポケットに押し込みじょうろを温室へ放り込むと、コンクリートブロックの上に置いていたカバンとコートを小脇に抱えた。
朝にしろ夕方にしろ、もうコートは単なる荷物になったしまった。自転車がこぎにくくてかなわない。
さて、今日はどんな報告をしようか。
決まっている。なにを置いても、新入部員二人の紹介をしなければならない。
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