定例報告
病室に射す西日がきつくなってきたので斜光カーテンを閉めに行った。日の光がほのかになり蛍光灯の無機質な明るさが際立つ。そのせいなのか頭が少し静まってきた。
「それで、当日は夏目が部活紹介、最後に僕が副部長として新入生向けのメッセージを話すことになったんだ。それにしても夏目はやっぱり緊張とか無縁だね。せんべいくわえている時と同じように話すんだもの」
本当に何を食べたらああなるのやら。まあ見習いたくない部分も多々あるのだけれど。
それに対して僕はひどい。舞台に立つだけでも頭が真っ白になった。新入生全員がこちらを向いている。眠そうな顔もちらほらいたけど、むしろみんなそのまま寝ていてくれないだろうかと本気で思ってしまった。
夏目はあの時どう話したのだろうか。終わったのかもわからないままマイクを渡され、とにかく右ポケットでくしゃくしゃになっている原稿そのままのことを口にしたつもりだった。
「話し終わったと思って会場を見たら全員シーンとして、目を合わせてくれる人がほとんどいなかった。夏目がマイクを奪って、これで園芸部の説明を終わりにします、と言ったらまばらな拍手がおきて、それで終了。
袖に降りたら夏目がいきなり、ドンマイ、だけ言って肩叩くからさ。なにやらかしたんだよ、と突っ込む余裕もなかったかな」
その後、授業に帰れずトイレでうなだれていたのは内緒。
後悔していないと言えば噓だけど、でもしょうがない。
「去年説明会を聞いたとき、僕はどうしても駒草先輩に会ってみたくなったんだ。別に憧れや尊敬があったわけじゃないし、実際に会ってみても馬が合うとは思わなかった。
でも、この人と一緒になにかやってみたらおもしろいんじゃないか、そう思えた。それに隣の桜葉さんを笑わせているのも羨ましかった。
結局、部活の内容は二の次でそこにいる人が魅力的かどうかが重要なんだろうね。だから僕も説明会で話さなくちゃなって。そして誰かを惹きつけられなきゃ、駒草先輩に負けたことになる。それは少し悔しいかな」
我ながら変な意地を通してしまった。今回の解答は間違いかもしれない。
自分がおもしろいなんて思えない。これで誰も入部してくれなかったら目も当てられない。
でもきっと、この意地を通さないなんてセンスない。
「僕が考えた勧誘のメッセージ聞いてみてくれない。土日ずっと悩んで考えたんだけど、寒いかな?」
説明会から二日経つ。でも、まだ鮮明に覚えている。
「園芸部はカモミールとかイチゴとか、オシャレな響きのものに囲まれていますが、実際は土づくりとか水やりとか地味なことも多いです。
でも本当に大切なのはそちらのほう。どの部活も一緒だと思います。見た目や表面的な香りもいいですけど、一番大切なのは中身の味。
どんなものがお好みですか? 各部を回りながら確かめてみてください。そしてもし、園芸部に興味がありましたら、お気に入りのジャムを一つご用意ください。
暖かいカモミールティーを用意してお待ちしています」
大げさな笑顔を作りながら彼女の顔を覗いてみた。
瞳は閉じられ、かすかな寝息が聞こえてきた。
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