定例報告

 だいぶ話が長くなってしまったようでお尻が痛い。

 ソファに付属する一人用のこの椅子はとてもふかふかなのだが、背もたれもないし長時間座るとやはり居心地が悪い。天井や壁は真っ白で床も優しい茶色なのに、なぜこのソファだけ真っ赤なのだろうか。

 普通、病室は患者さんが興奮する色味を避けるものだと思うのだが、何度来てもよくわからない。

「それで、結局昨日は下校時刻になって解散。生徒会への提出期限は明日なんだけど、どうしたものかな」

 やはりお尻の我慢ができないので、立つことにした。

「去年の部活説明会覚えてる? 駒草先輩と演台に立ってたでしょ。多分それが僕らの初対面。いや、そっちからは見えてなかったか。でも僕にとってはけっこう印象的で、とりあえず園芸部に見学に行こうと思った。まあ説明の内容はまるで覚えてないけどね、ごめん」

 もうネタがない。そろそろ帰るか。

 チランジア・テクトラムはベッドの脇に置かれたシルバーのカゴの中で白い葉をもわっと生やしている。

 今日は霧吹きを忘れていないので、カゴを手のひらにのせシュッシュと水をあげる。天井からコンセントがいっぱいぶら下がっているので少し怖い。

「今日はここまで。そろそろ帰るね。来週には説明会の顛末まで話せるかな。楽しみにしててよ。きっとおもしろい答えを出してみせるから」

 ベッドの主は静かなままだ。鼓動はあるはずだが、主張はない。

 まあ、しょうがない。来週に期待しよう。

 本当は卵型の華やかな笑顔がそこにあるはずである。

 しかし、あごから右ほほ、ひたい、後頭部まで白いガーゼで覆われ、鼻にはテープで留められた細いチューブが伝っている。首の回りは肌色の固定具で覆われ、それより下は厚い掛布団で見えない。

 全身が機械やチューブであふれていた先月よりはましだが、それでも部屋に入っただけではここに誰かいるなんて思わないだろう。

 ただし、覗き込めば黒い大きな瞳が開いているのがわかる。瞬きもしている。

 でも、僕を見てくれるわけではない。

 ベッドの柵にかかる黄色のタグに目をやる。

 ――桜葉理央りお

 この文字が本当に合っているのか、まだ信じきれていない。

「じゃあ、来週の水曜日にね」 

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