①
あの不思議な少年との
きっかけは、大切な友人の失踪でした。
私の通っていた女学院には、「フォーマルハウト」という特殊なクラブがありました。
今でも私の中に、
――どういうクラブなのか?
そうですね……なんて説明したらいいか。
学院に
担任の先生はそうおっしゃっていました。
規律を重んじ、正しく美しいマナーを身につける事。
敬意と慈しみの心をもって他人へ接する事。
勉学に
この3か条が、生徒に与えられた課題だったのですが、当初は思惑通りにはいかなかったようです。
そこで打ち出した最初の策が、全学年を対象に憧れを抱く生徒を1人記入するよう、アンケート票を取ることでした。
憧れを抱く生徒に、どんなヒトが挙げられたと思いますか?
そう。皆んな優秀なヒトばかりでした。
成績上位者であることは勿論、素晴らしい個性や才能を持っているヒト――。
華麗な容姿や、
洗練された歌声を持つヒトもいましたね。
学院に
票の多かった上位6名は、「フォーマルハウト」に入会する権利が1年間与えられます。
会員は、模範的な生徒で居続けることを条件に様々な特典が付与されるのです。
――例えば、ですか?そうですね……。
「フォーマルハウト」専用の、豪華な内装が
クリスマス会や卒業式などのパーティー行事の
興味ある分野への、上限のない無償支援金の提供。
年頃の少女にとって、魅力的なオマケだったのではないかと思います。
誰もが勉学に精を出しましたから、
私は気が気ではなかったですけどね。
優等生が増える数の分だけ、会員になるのも年々難しくなりますから。
――ズルをする生徒ですか?
中にはいましたよ、不正行為をするヒトも。
アンケートに自分の名前を書くよう強要したり、友人同士でタッグを組み票数を稼いだり、又は
当然無効票になりますし、クラブ入会権利も
先生方以上に私たち生徒がよく観ていましたから。
私には不正をしてまで、会員になりたい気持ちが分かりませんでした。
ただ、自分のプライドが傷つくだけなのに。
私には特筆すべき個性も才能もありませんでしたから、せめて優等生であろう、と努力を惜しみませんでした。
一方で「フォーマルハウト」への憧れも捨てきれなかったので、優秀な彼女たちの言動を
――私は周りから
クラブの特典なんてどうでもよかったんです。
あの頃から私は見栄っ張りで、
私の学生生活に転機が訪れたのは、17歳の秋でした。
「フォーマルハウト」の入会権利を手に入れたのです。
全校生徒1000人近くいる中で、たった6名の枠に滑り込んで。
なぜ私が
私の他は真新しいメンバーはいませんでした――大抵、選ばれるヒトは決まっていましたから。
既に出来上がったグループが
様々な
彼女が、授業で指名された時、
皆が彼女に注目し、一言も漏らすまいと耳をそばだてるのです。
おっとりした口調から飛び出す、物事の本質を突いた言葉。
そうやって「フォーマルハウト」でも、私と既存のメンバーにあった、微妙な
それまでは、何となく
私と彼女は違うって――。
でも、それは誤った先入観でした。
「私ね、カオリちゃん。
時々自分の全てが息苦しくなるのよ、発作みたいに ……」
放課後クラブ室に向かっていた最中、ふと自嘲じみた独白をした彼女に、驚きを隠せませんでした。
――まさか、彼女のような優秀なヒトがって。
自分の
彼女の言う「発作」を、私も何度か繰り返し経験していましたから。
私もそうであることを伝えると、彼女は哀しみに満ちた瞳で頷いて、そっと手を握ってくれたのです。
それからは、
ティーパーティーの後、2人でクラブ室に残り談笑したひと時は、私にとって特別なものでした。
――誰にも邪魔されずに済みましたからね。
楽しくも穏やかな時間は、あっという間に過ぎ去って、下校を知らせる鐘が
「S海岸の神隠しって知ってる?」
彼女は、最近話題になっているというブログ記事を私に見せてくれたんですが。
それが、失笑してしまうくらいお粗末な内容だったのです。
「古くから伝わるS市の伝承には、多くの人間がS海岸で神隠しにあったと記録が残されている。
何でも神隠しの原因は、姿形を変えられる亡霊らしく、それは月夜になると現れて、
亡霊に、月の世界……。
現実味のない、空想上の存在でしかありません。
私は内心呆れていたのですが、彼女は興味を抱いたらしく、S海岸へ行くことを提案してきたのです。
――はい、そのS海岸です。
「
私が初めて訪れた時も、皆さんと同じ印象を抱きましたね。
私は彼女に付き添う形で、S海岸へ向かいました。
珍しく、何度も誘ってきた彼女に根負けしたんです。
薄明の中、砂浜に通じる階段を降りて、私は漫然と歩きました。
私たち以外の他に人はいませんでした。
辺りを見回しても、浜辺に古い木製のボート1舟と、
私は味気ない場所にすぐに飽きてしまい、「早く帰ろう」と、
そうしたら、彼女はビクッと大袈裟に肩を震わせて、
異様な態度に声をかける間もなく、彼女が急に走り出したので、私は混乱しつつも、一生懸命後を追いかけました。
息が切れる頃、適当な路地でようやく止まったので、私は訳を尋ねようと
――恐ろしい形相でした。
それから
1人になると、悲しみと恐怖と、どこか安心も混じった複雑な笑みを浮かべては、窓の外を眺めるのです。
クラブ室にも徐々に顔を出さなくり、私はたまらなく不安になって、彼女を問い詰めたのですが。
あの、複雑な笑みを浮かべるだけで、答えてはくれませんでした。
放課後、彼女はどうしているのか。
罪悪感はあったのですが、気になって一度だけ後を追いかけたんです。
彼女は、例の海岸にいました。
波打ち際に立つ
私は彼女が海岸から立ち去るまで、一歩も動くことが出来ませんでした。
それが、私が見た彼女の最後の姿です。
悪意ある憶測が真実であるように、
「学院ではお行儀の良いフリをしていただけよ」
「ホントは不良少女で、私たちに隠れていけないことしてたんだって」
「犯罪を犯したから逃げ出したんだわ」
耳障りな発言が聞こえてくる度に、掴みかかりたい衝動を覚えましたが、私は……。
どうしても行動に移せませんでした。
先生方は
疑われていたのです。
彼女だけでなく、私たち会員も。
ハッキリではありませんが、先生方の言葉にはそのような意味合いが含まれていたのです。
――彼女は一体どこへ行ってしまったのか。
行方不明者届も
2人で語り合った、
彼女が変わってしまったのは、S海岸に行ってからで間違いないでしょう。
あの、
何かから、必死に逃げているように見えた細い背中。
私は
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