第35話 謁見

メイドによって連れてこられたのは謁見の間。アリシアとメルは途中でドレスに着替えている。イリスとエルン、ユーリは武装をといた状態だ。かくいうノアも着替えていないが、さすがに剣はしまっている。


「王の前で失礼のないようにお願い申し上げます」


そういってメイドが扉の前で頭を下げる。それを合図に衛兵が扉を開け、ノア達は謁見の間に入った。


広い空間の奥に五つの椅子が置かれている。それぞれ王族が座るものだ。アリシアは横にいるので、残りは4人。髪をツインテールにした幼い少女と、精悍な顔つきをした青年とその母親であろう美しい女性。そして中央に鎮座しているのはこの国の王、レイベルグ・セオドールだ。


(あれがこの国の王か。うちとは違って王としての威厳があるな。しかもかなり強い。武闘派か?)


一目でわかるほど鍛え上げられた肉体に、鋭い眼光を見て強者であると判断を下す。


よく見ると近衛騎士が立っているところにユリウスの姿もある。準備というのは謁見のことだったらしい。


王の前まで移動するとアリシア達は膝をついて頭を下げる。それが謁見の際の作法だからだ。本当ならば少ししてから頭を上げることを許可されるのだが、中々王から声がかからない。


それを不思議に思ったアリシアが前を盗み見ると、ノアが跪いていないのが目に入る。


(!?ノ、ノア様?何故立ったままなのですか!?)


ノアが膝をつく気配を見せないのでこれは不味いと思った矢先、近衛騎士から声がかかる。


「貴様!王の御前だぞ!」


(ああっ!遅かった..!でもこれでノア様も言う通りにしてくれるはず!)


アリシアの期待とは裏腹にノアはやはり跪く気配を見せない。


その態度に耐えきれなかったのか遂に近衛騎士の1人がノアに剣を突きつける。


「聞こえていないのか!この無礼者が!膝をつかないのならこの場で斬って捨てるぞ!」


これまで静観していたレイベルグも口を開く。


「アリシアを助けたからといってあまり調子に乗るでない。礼儀も弁えられないのか?」


そうすると、たった今近衛騎士の存在に気づいたかのようにしてノアはレイベルグ王に告げる。


「何故俺があんたに敬意を示さなければならない?礼儀というならあんたが俺に感謝の言葉を述べてからだ。そして俺は俺以外に跪くつもりはない」


そして魔力を解放し、全員を威圧する。


ノアは何者にも屈しないために力を手に入れた。血の滲むような努力をした。相手の身分がどれだけ上だろうとノアにとってそんなことは関係ない。下手に出るということは自分が相手よりも格下だと認めることになる。自分が礼を尽くすべきかどうかは身分ごときでは図ることはできない、それがノアの持論だった。


「あっはははははは!!!」


そこに笑い声が響く。声の主はユリウスだ。


「いいじゃないですかレイベルグ王。彼の言っていることも確かだし.....。このままじゃ死人がでますよ?」


ノアの魔力に当てられて蒼白な顔色をしている者が数人いる。だが彼らを責めることはできないだろう。彼らが弱いのではなくノアの魔力が強すぎるのだ。そんななか、ユリウスはそれをものともせずレイベルグに話しかけた。


王に対してこんな口がきけるのはこの場ではノアとユリウスくらいだ。ユリウスはSランクという称号があるので罪に問われることなど絶対にない。というよりも裁ける人間がいないのだ。なにせ1人で一国を滅ぼす力の持ち主にこそSランクという称号は与えられるのだから。


ゆえにレイベルグもユリウスを咎めることはしない。


「クックック。そうか...。そこまでとはな。全員面を上げよ。いいだろう。膝をついてもらう必要はない。だがアリシアをここまで連れてきたことについて一つ言わせてもらおう」


「そりゃどーも」


「ありがとう!娘を護ってくれたのだ。褒賞も与えてやろう。なんでも言うがよい。さて、礼儀は尽くしたぞ?次は貴殿が名乗る番だ」


「その通りだな。さて、レイベルグ王よ。私の名前はノア。しがない旅人です。このような若輩者ですが、王にお目通りが叶い光栄の極みでございます。礼はお受け取りいたしますが、褒賞など受け取るわけにはございません。当たり前のことをしただけですから」


ノアが急に敬語をつかい出したのを見てアリシア達は目を見開いている。ユリウスは爆笑していた。


「ほう。褒賞はいらぬとな?しかしそういうわけにもいかぬ。お前のためでもあるが、第一王女を護り抜いた者に対してなんの恩賞もなしでは王族の気品が疑われてしまうのでな」


「わかりました。ありがたき幸せ」


ノアが頭を下げる。


「明日、もう一度話そうか。次はここではなく客間でな。誰か彼らを客室に案内しろ!」


レイベルグからの誘いに頷き、ノア達は退室する。アリシア達は一言も喋っていないが、そういったことは明日までとっておくということだろう。自分の信念のせいでそうなったのかもしれないと少し罪悪感を覚える。


部屋を出てから、アリシアがこちらを振り向く。


「何をやっているんですかノア様!?あんなことをしていたらこちらの心臓が持ちませんよ!少しは私達のことも考えてください!それにあんな状況で言う必要もなかったでしょう!?今は従ってやり過ごすとかできないんですか!?どれだけ私がドキドキしたか!」


一気にまくしたてられる。アリシアの説教を聞きながら森にいたときもこんなことがあったと思い出す。


(アンリの説教もこんな感じだったな。もう懐かしい感じがする)


「聞いているんですか!?ノア様!」


「わかったからアリシア。顔が近い」


怒っている間に興奮したのか、少し顔を動かせば唇が触れ合う距離まで近づいていた。ノアがそれを忠告するとアリシアは顔を真っ赤にして離れる。


「す、すいません...。私ったら怒って周りが見えてなくて...。本当にすみません!」


そのまま走ってどこかに行ってしまった。それほど顔が近づいたのが嫌だったのだろうかと少し傷つく。イリス達もそのあとに続いていった。途中でアリシアが転んでいるのを見て笑ってしまったのは後ろに立っていたメイド以外には知られていないだろう。


「忙しい奴.....」


ぼそりと呟いてノアは部屋まで案内してくれるメイドについて行くのだった。







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難産でした....!文章おかしいところがあるかもしれませんがすみません!以後気をつけます!




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