第34話 王城入り

ノアとユリウス。2人の間には緊張感が漂っていた。ユリウスは自分の剣技を避けたことへの関心。ノアは"剣聖"と呼ばれるこの男の強さを知っていることからの警戒だ。


("剣聖"の二つ名を持つSランクの傑物!セントラス王国に使えているのは知っていたがこんなところで対面するとは.....)


"剣聖"ユリウス・ランベルジュ。世界でも数少ないSランクの肩書きを持つ強者の1人だ。ジゲンが天を砕くならばユリウスは天を斬り裂くといわれる騎士。戦うことになれば例えノアでも苦戦を強いられるのは間違いない。


ノアは冷汗を流しながらも、剣を一層強く握る。そして2人が動こうとした時、間に小柄な影が割って入る。


「2人共待って下さい!」


アリシアだ。ノアとユリウスが一触即発の雰囲気だったのを察して自ら止めようとする。


「おおアリシア姫!ご無事だったのですね。しかしそこの男は貴女を攫おうとした一味の仲間では?」


「違うわ!この方は私を守ってくれていたのよ!王都まで送ってくれたのもこの人なの」


必死にユリウスを説得する。ノアが全力で戦うのを見たことが無いアリシアは、ノアがユリウスに殺されてしまうのを懸念しているのだ。実際に戦えば、どちらが勝利するかはわからない。ノアにも奥の手があるが、ユリウスの能力を知らないのだから。


「そういう事だ。会えて光栄だよ"剣聖"ユリウス殿?」


「ふぅん。確かに本当みたいだね。誤解してすまなかった」


目を鋭くしてユリウスはノアを見定める。ノアも負けじとユリウスを睨むが、すぐに目を逸らされてしまった。


「ではアリシア姫。王城に向かいましょうか。レイベルグ王も姫様の御身を心配していらっしゃいます」


にこやかにアリシアに話しかけるユリウス。


「はい!でもその前にイリス達を....」


「それなら心配ありません。既に私の部下が迎えに行っていますから。我々はこのまま王城に行きましょう。君も来るだろう?」


最後にノアに話しかける。


「ああ。アリシアの護衛が俺の仕事だからな。そしてそれは王城までだ」


(さっきは睨みつけて来たと思えば...食えない奴だ)


国に仕えているのならアリシアの前では変なことはしないと判断して大人しくユリウスについて行くのだった。





♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢





ノアとアリシアはユリウスに連れられて王城にやって来ていた。


城の外装だけを見ても立派なものだが、内装も負けず劣らず豪華絢爛だ。無駄に煌びやかなのではなく、質素なところすらも装飾と合うように設計されている。


今は「準備をしてくるから少し待っててね」と言ってユリウスがいなくなったので客室に移動している最中である。


(いい城だな....セーベル《うち》とは大違いだ)


それを見てノアはセーベル王国の城を思い出す。悪趣味なほどにギラギラと輝いており、かけた金額など王族は気にもしていないだろう。それを美しいと形容できるのだから驚きである。


(あれはいるだけで目が痛くなったな。出来れば二度と見たくねえ)


自国の城に想いをはせていると、前方からイリス達が走ってくるのが見える。傍らにメルもいるのを見てほっとするノア。半ば放り出す形で預けて来てしまったので心配していたのだ。


「姫様!大丈夫ですか!?」


最初に声を発したのはやはりイリス。


「ええ。ノア様が助けてくださったわ。その後ユリウスも来たから大丈夫よ」


「兄上が!?今は稽古の時間の筈だが...またサボったのか!ああいや、そんなことより敵についての情報は掴めたか?」


(ユリウスってお前の兄だったのかよ!?)


今知った衝撃の事実に心から驚愕しつつも、ポーカーフェイスを崩さずイリスの問いに答える。


「いや、尋問する前にユリウス・ランベルジュが殺しちまったからな。敵の正体については進展なしだ」


「なっ!あの馬鹿は...!兄に関しては私が謝罪する。すまない!」


兄の不手際の後処理には慣れているのか綺麗に頭を下げるイリス。


「で、お前らはどうやってここに?」


この質問にはエルンが答える。


「はい。まず貴方が去った後私とメルちゃんで駐屯所に救援を要請しに向かったんです。そうしたらそこに"剣聖"がいまして....。事情を話すとノアくんと同じように飛び出して行ってしまったんですよ。そのあとユリウス殿に着いていた騎士団の方にここまで送っていただいた、ということです」


「なるほど...。それはよかったな。一つ、俺から謝らなければならないことがある」


皆の顔を見る。中でもアリシアの方を見てノアは謝罪の言葉を口にした。


「街中でアリシアが攫われたのは俺の不注意だった。すまない」


そう言ってノアは頭を下げる。


「そんなことないです!確かに攫われてとても恐ろしかったです、が!そんなことよりエルンを救ってくれたことに私達がお礼を言うべきでしょう!!」


アリシアはノアの謝罪を受け付けない。その上感謝まで述べている。ノアは言われたことにぽかんと惚けるが、すぐに元の表情を取り戻す。


「そうだな...だが俺に責任があることは事実だ。それだけは謝罪させてもらうぞ」


(あんな思考が出来るとは....アリシアが眩しく感じるな。俺にあんな対応はできない)


自分には無い純真さを見て、眩しい物を見るかのように目を細める。


「私の命を救ってくださってありがとうございました。ノアくん。貴方が止めてくれなければあの剣は私の心臓を貫いていたのでしょう?」


「......その通りだ」


「ならやはり謝る必要はありませんよ。例え他の誰かが責めても私に責める資格はありませんから」


その言葉に同調するようにユーリが頷く。


そのタイミングで客室の扉が開き、メイドが入って来た。そしてこう告げる。


「姫様。並びに近衛騎士団の皆様。そしてノア様。陛下がお呼びです」



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