第36話 夜の庭園

ノア達が謁見の間を去った後。


部屋にはレイベルグとユリウスの姿があった。


「して、お前はあの少年をどうみる?」


「そうですね...少なくともSランクはあるでしょう、ってくらいですよ。陛下も見たでしょう?あの濃密な魔力を」


レイベルグの質問にユリウスが答える。あの時ノアが放出した魔力はユリウスから見ても完成されたものだったのだ。


「それは余も目にしたが....あれだけでは判断できまい?戦闘力という面で奴はどれくらい強いのだ?」


魔力のみで強さを測ることはできない。魔力量が多くても操作が下手なんてことはざらにある。例えば特大の魔力弾を撃つことができるが他の魔法を使うことが出来ないなど、多すぎて上手く扱うことができないというのが定説だ。


「単純な戦闘能力で言うなら僕とやり合って勝てるかどうか、ってところですかね。アリシア姫を助けるときに彼、僕の剣筋を見切って当たらないように動いてましたからね」


「ふむ。いずれにせよ脅威となり得る...,か。ユリウス」


「はい。わかってますよ。みます」


一礼してユリウスは謁見の間から出て行く。誰もいなくなった部屋でレイベルグが鎮痛な面持ちをしている。


「この国にとって吉となるか凶となるか...」


レイベルグの呟きは虚空に消えていった。





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謁見をした後メルと一緒に客室に案内されたノア。メルと一緒にいるのは話があると言われたからだ。


「どうしたんだ?」


部屋についてから早速話とやらについて質問する。メルが自分から話をしにくることは珍しいので何か重要なことだとあたりをつけていた。


「エルンが私達のことを怪しがってる。なんでノアが私を助けたのか、とか」


ノアは顎に手を当てて考え込む。


「なるほど....やっぱりアイツは用心深いな。そこまで重要な隠し事はしてないから別にいいが、メルのスキルの事は誰にも言わないようにな」


隠していることと言えばノアのスキルや能力についてだが、それについては言及しないように契約を交わした。エルンが怪しんでいるのはメルの素性についてだろう。それだけではなく、恐らくまだノアをも完全に信用していない。


(俺が急に連れてきたからな...疑われても仕方ないか。目下一番警戒すべきはエルンだが....ユーリの奴も何を考えてるのかわからないからな。まあ疑われていたらメルが何か言うはずだし問題ないか)


「わかった。誰にも言わない。でも....」


「ずっと隠し続けるのは難しいだろうな。時期を見て教えるしかない。それまでは秘密だ」


不安がっているメルの頭を撫でる。人の心が読めるスキルだと他人に知ららればどういう反応をされるかは目に見えている。腹の中を無断で覗かれるのだから気分は良くないだろう。


(有用なスキルだ。だからこそ忌避される。メルが力をつけるまでは俺が護り抜かなければならない)


撫でられて嬉しそうにしているメルを見て決意を新たにした。





既に日は傾き、夜が近づいている。疲れたのかメルは眠ってしまった。ノアは座っていたベッドから立ち上がって外に散歩にでる。


(いざというときの逃げ道や建物の構造を把握しなければいけないしな)


もし王城で戦闘が起こったとき、客人として招かれているノアとメルが狙われる可能性もある。警戒をしすぎても困ることはないのだ。


誰もいない廊下を歩いていると、噴水が見えてくる。様々な草木が生い茂っており、どうやら庭園のようだ。


(すごいな.....この品種の花は栽培が難しいそうだが見事に咲いている)


近くに咲いていた花を見てこの城の庭師の腕前に舌を巻く。他にどんな花があるのかと興味がわき、一通り城を見終わったのもあって庭園を散策することを決める。


(東洋の花に寒冷な地方の花までなんでも揃っているな。魔法で温度や湿度を調節しているのか?かなり綿密な魔力操作が必要だろうに)


寒くする、熱くするなどの大雑把な温度変化ならば再現が可能だが、植物に対して適切な温度を行うとなればそれが出来る魔法使いは極端に減るだろう。精密な魔力操作に植物への深く専門的な知識を必要とする温度調節は宮廷魔法師レベルでも数人できるかどうかというところだ。


そういった珍しい花々を見ていると、前に人影があることに気づく。

 

「またお前か、ユリウス」


(コイツなら俺の索敵に引っ掛からなくてもおかしくない。前もそうだったしな)


「やあ!いい夜だね」


ユリウスが気さくに挨拶を返す。


「お前のせいで台無しだ。俺は帰る」


すぐに踵を返して来た道を戻ろうとするが、後ろからの殺気に足を止めて剣を抜く。そして振り返ってユリウスの剣を受け止めた。


静かな庭園に金属音が鳴り響く。


「何のつもりだ?」


ユリウスに負けないほど殺気を込めて声を出す。


「少し、付き合ってくれよ。我が王がそれをお望みなのでね」


ユリウスの顔には満面の笑みが浮かんでいた。




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