第30話 追手と野盗

あらゆる魔物がいる森を抜けるのが一番の難関——ということもなく、魔物に襲われずにノア達は森を抜けた。


ノアは黒竜を倒しているのでこの森の生態系の頂点に位置する存在であり、その近くにいる者にも手を出すべきではないと魔物が恐れをなしたのだ。一応ノアは自らを除いて索敵範囲が最も広いユーリに気づかれないよう周囲を[死影契約ネクロマンス]で呼び出したリルに警戒させているので万が一ということもない。


森を抜けたノア達は現在、街道を歩いていた。顔を見られると襲われる確率が上がるのでノア以外は黒いフードを被っている。


「ここまでは何の問題もなくこれたが....。魔物に襲われる可能性が少ないここの方が追手の襲撃にうってつけだからな」


「うむ。勿論警戒は怠らないぞ」


ノアの警告にイリスがそう返す。


二日かけて森を抜けたが、既に日が沈みかけている。襲撃されやすい時間帯だ。ひとまずノアが持ってきた天幕を張り、見張りの順番を決める。


アリシアは見張りとして機能しないのでエルン、ユーリ、イリスそして最後にノアという順番になった。


(リルがいる時点で見張りは不要なんだが。まあ[死影契約ネクロマンス]は知られたくないしな)


無駄に睡眠時間を削らせることになってしまうが、これも必要経費だと割り切る。心の中でイリス達3人に謝りながら道中で狩ったグレートボアを解体し、調理を始めるのだった。




「ふぅー。美味しかった....!」


ノアが作った料理に感嘆の声を漏らしたのはイリスだ。余程グレートボアの肉が美味だったのだろう。普段表情を表に出さないユーリでさえもどこか嬉しそうな雰囲気が漂っている。


「本当に美味しかったです!料理もできるんですね!」


アリシアがノアの料理の腕を称賛する。普段城で暮らしているアリシアがそこまで言うのならばノアの料理は専属の料理人と遜色ない腕前ということになる。


「普段から自分で料理をしていれば誰でもこれくらいにはなる」


そう言われたアリシアは料理が苦手なのかすっと目を逸らしたが、それを聞いていたエルンとユーリがびくりと身体を揺らしたのをノアが見逃すことはなかった。ちなみに今の言葉は謙遜ではなく本心である。





♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢





料理を食べ、アリシアとユーリ、イリスは天幕に入ってエルンが見張りをしていた。ノアは別の天幕で寝ているが、リルによる警戒は続けさせている。


真夜中、ノアは索敵範囲内に敵が侵入してくるのを感知した。


(反応が大きく分けて二つ。追手とこれは....野盗か?セントラス王国が管理している街道で野盗の真似事とは命知らずな....)


天幕の外に出ると、イリスが木の椅子に座ったまま寝ているのを発見する。


(まあ森を抜けるのに神経を使って疲れてたんだろうな)


ため息をつき、イリスを抱き抱えて自分の天幕の中に寝かせる。アリシア達の方にしなかったのは無断で入るのはいかがなものかと思ったからだ。


そうしてリルを呼び戻し、新しく指示を与える。


「俺は追手をやるからリルは野盗の方を頼んだ。ないとは思うがやばいときは呼べ」


そう言うとリルは野盗の反応がある方に駆けていく。ノアは反対方向に歩き出し、少しした所で足を止めた。


「おい。さっさと出てこい。こないならこっちから仕掛けてもいいんだぞ?」


呼びかけるも誰も出てくる気配はない。


「あっそ。なら——後悔すんなよ?」


[神速]と[竜腕]を発動させて抜いた剣を思い切り木に向かって振る。振るった剣はその後ろに潜んでいた追手の動体ごと木を両断した。


「さて、やっと出て来る気になったみたいだな?」


言葉通り様々な場所から黒いフードを被り、手に各々の凶器を持った追手が姿を現す。


「貴様何者だ?」


その中の最も強いであろう1人がノアに問いかける。


「おいおい人に素性を聞くなら自分から、だろ?」


「答える気はないかならば——死ね」


ノアを取り囲んでいた追手が一斉に襲いかかる。普通ならばぶつかって連携にならないが、そこはきちんと訓練された暗殺者。それぞれが自分の立ち位置をしっかりと認識し、攻撃が被ることがない。しかも武器には毒が塗ってある。並の冒険者や兵士ならなすすべもなく殺されるだろう。


「全員俺にスキルを寄越せ!」


しかし相手はノアだ。[空間把握]で即座に回避ルートと攻撃可能な箇所を把握し、[魔眼]で動体視力を上げる。更に[神速]を使って敵の間を走り抜け、すれ違い様に全員の首を切り落とした。


「なっ!?」


唯一生き残った追手の顔が驚愕に染まる。


「さて後はお前1人だぜ?どう落とし前つけてくれるんだ?」


「黙れぇ!我々は決して失敗しない!」


挑発と自分以外が死んだという状況に耐えきれず、剣を構えてノアに飛びかかる。


ノアはにやりと笑って風魔法で急に加速し、その足を切り裂く。眼前でノアを見失った男は無様に地面に顔から衝突すると、足を失った痛みに悶え始めた。痛みに耐える訓練は受けているようだが、痛い、という感情は消せていない。


そんな男に近づき、その頭に触れて記憶を漁るために魔法を行使する。


が、瞬間男の頭が爆発する。咄嗟に飛び退いたので傷の一つも負っていないが、情報を得られなかったことに憤る。


(記憶を見ようとして爆発した...精神感応魔法か。しかもかなり練度が高い。胸糞悪いやり方だな)


黒幕に対する考察を進めるが、向こうからリルが走ってくるのが見え、一旦考えるのを止める。


(ま、こんなこと考えても誰が犯人かは分からんしな)


リルは野盗は手応えがまったくなかったと不満を表すが、ノアはそれを相手にしない。拗ねたリルの機嫌をとるためにノアはリルを撫でながらアリシア達が起きて来るのを待とうとする。


その時、リルが何かを咥えていることに気付く。


「ん?なんだこれ」




ノアが新しく手に入れたスキル


・隠密  ・暗殺術アサシン





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