第25話 相対
(ありえない![隠密]と[同化]を併用してるんどぞ!?碌な戦闘能力もない奴に見破られる筈がない!)
目が合った、という事実に狼狽するノア。スキルで姿を隠しているだけではなく、気配すらも潜めている状態を見破るのはマスラオウにすら不可能なことだ。しかも非戦闘員であれば尚更ありえない事態が起きているとわかる。
焦っている内に黒フードによる襲撃は終わっていた。護衛と思わしき人物達の腕前は総じて高かったが、中でも剣士の女性の実力が高く、その剣技はノアでさえ目を見張る程だった。魔法使いもかなり強いが、剣士ほどではないようだ。
襲撃を凌ぐことはできたが、どうやら後衛の白マントが毒をくらったらしく先程目が合った少女が必死に解毒しようとしているのが見える。
(可哀想ではあるが関与するのも面倒だ。こういう時はさっさと立ち去るのが一番——)
「そ、そうです!木の上にいる方!」
(っ!?余計なことを...!)
「なっ!?まだいたのか!」
少女が叫んだ声に反応して周囲の護衛がノアに対して戦闘態勢をとる。そして問答無用とばかりにノアの立っている木に向かって魔力弾が飛来し、着弾した。
咄嗟に木から飛び降りることで魔力弾を回避する。
「俺は追手じゃない!通りすがりだ!」
弁明するも相手は聞く耳を持たず、攻撃を止める気配はない。
(後ろに飛んでそのまま逃げるべきだったか!)
自分の行動を恨むが、既に剣士の女性がノアに切りかかっている。それをバックステップで躱すも、丁度そこに水属性魔法の「水弾」が放射されていた。
なんなく土壁を作りだして水弾を防ぎ、再び切りかかってくる剣士の攻撃を腰から抜いたナイフでいなしていく。
(埒があかないな)
相手の剣を大きく弾き、その隙に相手の懐にもぐるとその腹部目掛けて掌底を放つ。それにより剣士が後退した瞬間、[神速]を発動して今も魔法使いに守られている少女の後ろに回り込むとその首筋にナイフを突きつける。
「これ以上やるならコイツの首が飛んでから、だ。それが嫌なら剣を納めろ」
本当に殺す気はないが出来るだけ脅しをかける。そちらの方が交渉しやすいからだ。
「くっ!卑怯な.....!」
「っ...!」
悔しそうに剣を鞘に納め、ノアを睨む。魔法使いはノアと護衛対象が密着しているので、魔法に巻き込む可能性がありどの道脅威にはならない。なるとすれば毒で苦しんでいる弓手だが、よほどのことがない限りそうはならないだろう。人質の少女が何か言いたそうにしているのを無視し、剣を納めたのを見て話をすすめる。
「先程言った通り俺はお前らの追手じゃない」
「そんな訳がないだろう!ならばなぜあんな所に隠れていた!」
「あんたらが戦ってたからだよ。誰だって無関係な戦いに巻き込まれたくはないものだろう?」
反論を涼しい顔で受け流し話を戻す。
「それで...あなたの要求はなんなんですか?」
魔法使いがノアに尋ねる。
「話が早くて助かるよ。俺が望むのはあんたらが俺を見逃してくれること、それだけだ」
「そうですか....。イリス。確かにあの少年は追手ではないと思います。条件を飲みましょう」
「な!?根拠はなんだ?エルン!追手でないという根拠は!?」
「本当に追手ならばもう姫様は殺されているか連れ去られていますよ」
「だ、だが....」
逡巡している剣士を納得させるよう魔法使いが説得するが、中々判断がつかない。
「で?どうするんだ?早く決めてくれ。俺だって暇じゃあないんだ」
ナイフをチラつかせて判断を促し、同時に人質がいることを強調すると——
「あ、あのっ!」
意を決したように人質がノアに話しかける。
「あ?」
「ひ、姫様!?」
「解毒剤を持っていませんか!?早くしないとユーリが...!」
人質からの質問に少し考えてから返答する。護衛の言葉は無視だ。
「たとえ解毒剤を持っていたとして、なんで俺がお前達にそれをやらなきゃならない?俺は被害者だぞ?」
「存じております!それでもっ!お願い致します....!望みがあればなんでも仰っていただいて構いませんから!」
「.........」
(「姫様」って呼ばれてたのと、この発言から見るにかなり高い身分か。面倒くさそうだが...もう関わっちまったしなあ)
「はあ....持っている。見たところシャドウスパイダーの毒だろうからな。だが解毒するなら家まで行く必要がある。それでも——
「行きます!連れて行ってください!」
「駄目です姫様!追手ではないのかもしれませんが怪しいということに変わりは....」
「でも私達じゃ解毒できないでしょう!?早くしなきゃ死んじゃうのよ!?」
イリスと呼ばれていた女性がついて行くと即答する少女を諌めようと横から口を出すも、逆に反論されてしまう。
「そ、それは....」
倒れている女性を抱え上げ、ノアは口論をしている2人に声をかける。
「この女の毒を消したいならさっさとしろ。置いていくぞ」
切羽詰まった状況なのを思い出したのか2人とも言い合いをやめ、ノアの後ろに連れ立って歩きだした。
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