セントラス王国編

第24話 邂逅

黒竜との戦闘が終わった後、ノアは怪我を負った上で意識を失った。大量に流れた血の匂いに釣られてやって来た魔物達に食べられそうになっていたところを、轟音を聞いて様子を見に来たリキや他のエイプに救出されたことで事なきを得た。


イージスの熱線による攻撃でできた傷は決して浅くはなく、熱によって傷口が焼かれて塞がれていたことで[超速再生]の効きが悪いこともあり、目を覚ましたのは三日後のことだった。


「んぅ....」


黒竜との戦いで気を失ったノアが目を覚ます。起きたばかりで焦点が定まらず、ぼんやりとした視界の中、自分の置かれている状況について思考する。


(ここは....)


いつもとは違う天井が目に入り、次に顔を横に向けて周囲を確認する。すると、いきなり誰かに抱きつかれ視界が塞がってしまう。


「うわぁぁぁん!目を覚ましたよぉぉぉ!」


そう抱きついた主が叫ぶと、廊下からドタバタと音がして、まもなく部屋にリキが飛び込んでくる。


リキが飛び込んでくるということはこれはアンリか、と考えて彼女を宥めるために声をかける。


「アンリさん。俺は大丈夫ですから一旦離して....「やだ!!」 ええ....?」


が、即座に拒否されて抱きしめる力が更に強まる。どうすればいいんだ、と目でリキに問いかけるが、首を横に振るばかりで何も言わない。


抱きついているアンリを一瞥し、泣いているのを見て抵抗するのを止める。アンリがノアのことを自分の子供のように大切にしていたのを知っていたし、少なからずそれに助けられることもあった。自分がどれだけ昏睡状態だったのかもわからないというのもあり、アンリが取り乱すのも致し方なく、泣かせてしまった要因は自分にあると思ったからだ。


アンリのことは落ち着くまで待つ事に決め、リキに幾つか質問を投げかける。


「俺はどれだけ寝ていたんだ?」


「丁度三日間だな。傷も治るのが遅かったし心配したんだぞ?」


「それは....心配をかけてすまなかった」


何か言い返そうとするも、口振りからリキが真剣に心配してくれていたことを察して素直に謝罪の言葉を口にする。


「ああいや、別に謝って欲しくて言ったわけじゃない。謝罪は必要ないさ」


「俺が言いたかっただけだよ。それと黒竜の死体はどうした?あそこに置きっぱなしか?」


「なわけないだろ。あれだけ綺麗な死体だ。なんかに使えるだろうし里の若い奴らに言って回収させた」


「そうか....。ありがとう。少しあれを使ってやりたいことがあるんだ」


「そんな事だろうと思って加工はまだしてないぞ」


リキの察しの良さに感嘆するも、アンリが泣き止んだことに気づいて思考がそちらに引っ張られる。


「あー、アンリ?そろそろ離してくれると嬉しいかな」


最初とは打って変わって素直にノアから離れるアンリ。それに安堵してホッと息を吐く。


「心配したんだからね!?あれだけ無茶はしないようにって言ったのに!運ばれて来たときは血だらけだったのよ!?」


泣き止んだかと思えば次は怒り始める。それに面食らうも、全ては自分を思ってのことだと真面目に聞き入るのだった。


「用があるなら入ったらどうだ?マスラオウ」


アンリの怒りが収まった頃、ノアが廊下に向かって声をかける。


「なんだ....。気付いてやがったのかよ...」


そう言って部屋に入って来たのはノアの師匠でもあるマスラオウ。アンリが説教が聞こえて入室に尻込みしていたのだろう。ノアはマスラオウが部屋の前で右往左往する姿を思い浮かべ苦笑する。


(無駄に気をつかうんだよな。マスラオウは)


これでも長い付き合いなのでマスラオウの性格は熟知していると言っても過言ではない。


「それで?どうしたんだ?」


「ああ!?別に用事があった訳じゃねえよ。お前が目え覚ましたって聞いたから来てやったんだろうが!」


「わかってるよ。からかっただけだ。渓谷の様子をリキ達に見に行かせたのもマスラオウだろ?」


「まあ一応な」


「おかげで魔物に喰われないで済んだよ。ありがとう」


「お前に素直に礼言われると鳥肌が立つな」


「なんでだよ!いつも言ってんだろ!」


心外だ、とばかりにマスラオウに反論するノア。それをリキとアンリは微笑ましく見守っている。


マスラオウとひとしきり言い合った後、ノアの容体を心配したエイプ達がこぞって押し寄せたため、ノアはその対応に追われるのだった。





♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢





目を覚ましてから数週間が経った。傷は完治したが、長い間動いていなかった身体の鈍りをなくすため、ノアはエイプの村を出て崖下に繰り出していた。


体操を終えると、身体の調子を確かめるために森の中を駆けていく。森の中を時には木の間を跳躍したり、倒れた木の下をくぐるなどして疾走する。


スキルの確認は村を出る前に済ませてあるので今は試さないが、もう一度スキルを見直す。




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神話級能力ミソロジースキル:叡智之神メーティス


[叡智之神メーティス]に含まれる権能

・解析  ・身体強化(現在強化率7.5倍)


コピーしたスキル

・神速  ・竜腕  ・竜脚  ・超貫通

・感覚強化  ・操糸  ・毒操作

・魔眼  ・竜身  ・天進流武術

・鍛治  ・隠密  ・同化  ・直感

・睡眠耐性  ・熱耐性  ・電流耐性

死影契約ネクロマンス・魂操

・索敵  ・轟雷  ・空間把握

・並列思考  ・竜王覇気  ・竜鱗

・炎熱操作  ・暴風之神バアル

熱砲ブレス  ・竜励波動

・超速再生


コピーした魔法

・地槍  ・召喚  ・竜魔法


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[叡智之神メーティス]の中のスキルは現在統合中であり、統合後の変化を楽しみにしている最中である。


それよりも驚くべきは新しく手に入れたスキルだろう。



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ユニークスキル:限界突破


発動後、短時間全ての能力が大幅に上がる。

使用後には反動により全ての能力が下がる。


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これは[叡智之神メーティス]でコピーしたのではなく、自然に獲得したものだ。ユニーク級のスキルであるこれは使用後の反動などのリスキー側面もあるが、それを補って余りある効力を有している。戦いの最中は気づいていなかったが、黒竜との戦いでは最後これに助けられたと言えた。


一通りスキルの確認が済むと、訓練を再開し、再び森の中を駆け回る。


少しすると、ノアの索敵範囲内に人間の反応を感じる。


(森の中に人間?何故こんな危険な森に...。

少し見に行ってみるか)


そう判断し、速度を上げて反応があった場所に向かう。


そこには黒いマントを着た集団と、白いマントを着ている4人の人間が戦闘を繰り広げている最中だった。ノアは4人白マントが、1人を守るような動きをしていることから何らかの護衛を必要とする身分であると推測し、木の上から戦闘を見守る。


そんな中、護衛されている白マントが何かに気付いたかのようにノアの方を見る。丁度ノアもそれに目を向けていたため、2人の目線が交わる。


目が 合った。


その異常事態にノアは硬直する。



この日、この時、この瞬間。天文学的な確率で2人の目が合ったのだ。これを境に——


運命の歯車は回り始めた。






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すみません嘘つきました。明日も更新します。

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