第22話 決着
「悪いな、俺は傷もすぐに再生するんだ。さあ、再開しようか」
(コイツが[超速再生]ではなく[自己再生]しか持っていないのはこれまでにあまり傷を負って来なかったからだろう。その上竜種としての自然回復力があるから必要なかったってとこか。それが弱点になるとも知らずに....)
「モルスは遠距離から魔法攻撃に徹しろ。リルはアレの周囲を走って撹乱。サングィスは俺と同じように攻撃主体。スイは俺に付いて防御と回復を頼む」
契約した死影達に指示を出す。モルスは言わずもがな
ランクはS +。最後のスイはスライムが進化したSランクのアブソープスライム。吸収と放出が可能であり、派手な戦闘量は無いがサポートとしては超一流だ。
彼等はノアが
召喚には魔力をそこまで消費しないが、やられた死影を再生させるには多くの魔力を消費してしまう。それを考慮してここからの戦闘では闘気を主体に立ち回ることを決定する。
『巫山戯るな!こんな人間如きがぁ!!』
今度こそイージスの逆鱗に触れたのか、様子が変わる。
『お遊びはこれまでだ!貴様は絶対に殺す!』
「はっ!こっちのセリフだよ!」
そう吐き捨てると[疾走]が進化した[神速]を使用して一気に懐に潜り込む。闘気で強化した剣で斬りつけ、それに合わせてサングィスの血液で出来た刃がイージスを襲う。
それを歯牙にも掛けず、イージスは自身の周りに光球を出現させる。
『ええい!煩わしい!』
光球から無数の熱線が放たれる。当たった箇所が溶けていくのを見てスイを前方に展開させる。
(この熱線...極小の
イージスの口から放たれる
竜と人間の違いの中で最も大きなものは内包する魔力量の違いだろう。元々竜種において黒竜や白竜、星竜の三体は限りなく精神的な存在だ。肉体はあくまで依代にすぎない。言うなれば魂が本体、とでも表現すれば良いのか。この性質は最強種に共通しており、彼等を倒すならばその「魂」を貫かなければならない。魂というのは魔力が貯蔵される場所であり、その強靭さによって魔力量は変わるとされている。それにより魂が本体である竜種は先天的に魔力量が人間とは桁違いである、ということになる。
その魔力量があるからこそ常人であれば一発で魔力枯渇に陥るであろう
(だが魔力量なら俺も負けてはいない。俺は人間だが追放される前、魔力量は測定することが不可能だった)
スイの防壁に隠れながらそんなことを思い出す。感傷に浸る間もなくスイが震え始め、吸収できる量が限界を迎えたことを知らせる。
それと同時にイージスが口を開き、
「スイ!放出!」
それに対し、吸収した熱線をまとめて放出する。一つ一つは細い熱線だが、集まれば本場の
その直後、イージスが身体を丸めるような仕草をとる。瞬間、あたりに凄まじい威力の衝撃波が広がる。渓谷の壁をえぐり、死影達がダメージに耐えきれず霧散していく。
(マジかっ...!ここに来て詳細不明のスキル...![超速再生]は内側よ傷には効きにくいから時間がかかるはず。その隙にアイツが攻撃して来ないとは到底思えない。
このままやり合ってもジリ貧だな。死影達を使役していた分俺の魔力が先に尽きる。再生にも魔力を使用するし..ここで勝負にでる!)
イージスが光球を再び装填している間に最高速度で接近する。無論、イージスに姿を捉えられるがそれに構わず速度は緩めない。イージスの魂があるであろう首に向かって跳躍し、剣を振りかぶる。最初の解析時に魂の位置までも覗き見ることに成功していたため、迷うことはない。
『馬鹿め!血迷ったか!』
イージスは飛びかかるノアを前足ではたき落とそうとする。が、足に血の杭が刺さっており四肢を動かすことができない。
先程、殴られたときに出血した血を
「死ね。黒竜!」
首に向かって振りかぶった剣を突き刺すも、闘気の強化のみでは突破することのできない鱗が邪魔をするだろう。勿論そのことはわかっている。だから闘気だけではなく温存していた魔力も同時に使用する。それぞれよエネルギーを別々に使うのではなく、その二つを織り交ぜていく。
(クソッ!これでもまだ貫けないのかよ!魔力も闘気も限界まで絞り出せ!)
枯渇しかけていた魔力と闘気が回復し、普段目視することのできない魔力が可視化できるほどに集中させ、闘気は黒く染まる。放つのはノアが学んだ天進流と我流の剣術を組み合わせた突き。
「
それは一寸もずれることなくイージスの魂を貫いた。闘気と魔力の合力に耐えられず、ノアの剣が砕け散る。しかし、黙ってやられるほどイージスはお人好しではない。死に際に放った熱線がノアの身体中を貫く。
「ツッッ!!」
口から血反吐を吐き、地面に落下していく。イージスもまた、身体から力を失いその巨躯が倒れる。
かくして長き時を生きた黒竜は1人の少年によって討伐された。自らが負けるわけがないという驕りを悔やみ、そして恥じながらイージスの魂はまたもや長い眠りについたのだった。自分を打ち倒した強者と再び相見えることを願って。
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