第17話 決闘 下
闘技場の中では巨大なエイプと1人の人間が激闘を繰り広げている。
無論、ノアとマスラオウだ。
ノアは「空歩」でマスラオウの周りを跳びまわりながら攻撃を加えている。時には殴り、時には蹴りを。
(このヒット&アウェイが通用してんのはマスラオウの身体がでけえからだ。今は大丈夫だがもうすぐ体力と闘気の限界が来る...。早く勝負に出たいが隙がねえ!)
一見、ノアの撹乱に手も足も出ないように見えるが、その実マスラオウはダメージをほぼ受けていないしあまり動いてもいない。このままではノアの方が先に戦闘不能になるだろう。
「鬱陶しいなぁ!ふんっ!!」
マスラオウが跳んだ。それだけで地面が陥没する。
(何する気だ?——ッ!?)
マスラオウの行動に疑問を持つのと同時に、マスラオウは「空歩」を使い地面に突っ込んで来る。
地面に激突すると、その衝撃波で身体ごと吹き飛ばされる。吹き飛ばされている最中に迫り来るはマスラオウの拳。
だが、ノアは身体を回転させ腕の上を走り、その勢いでマスラオウの顔面に蹴りを放つ。
(入った!これで少しぐらいはダメージを...。)
「足癖が悪ぃなあ!」
ダメージが入ったかと思うも、先程と反対の手で殴られる。
(クソッ!!効いてないのかよ!?)
咄嗟に腕を割り込ませるも、あまりの衝撃に数m飛ばされる。何度かバウンドしてから態勢を戻す。
「ガッ!げほっげほっ!」
「これでわかったろノア!俺に小細工は通用しねぇ!決定打に欠けるお前じゃ俺には勝てねぇ!!」
(小細工は効かない....かそうみたいだな。決定打に欠けるってのも確かにそうだ。それでもこれを続けるしか——。いや、それでいいのか?)
途切れかける意識の片隅で自分に問いかける。
(俺は何のために今闘っている?勝てればそれでいいのか?マスラオウに認められるのに勝つだけでいいと?本当にそう思うか?)
今自分は何のために闘っているのか。本当にヒット&アウェイを繰り返すだけでいいのかと。
マスラオウに認められるために今ノアは闘っている。認められるのに全力で闘わずしてどうするのか?
(そうか。そうだよな....。俺はいつのまに驕っていたんだ?認められるんじゃない。認めてもらうんだ。)
「はははっ。あっはははははは!!愉快だなあ!本っ当におもしろいなあ!」
「あ?頭打っておかしくなったか?」
急にノアが笑い出したことをマスラオウが訝しむ。
(自分が強くなったと思い込んでいた!力に溺れるってのはこういうことなのかな?覚えておこうっと。)
「ああ。少し気分が上がってるなあ。でもひどく頭がクリアだ。」
「なんかわかんねえが頭がおかしくなったんじゃねえならいい。さっさと続きだぁ!」
「わかってるって。でもまどろっこしいのはやめにしようぜ。次で決着だ。」
そう言ってマスラオウを見据える。
「ほぉ?いいぜ。できるもんならなあ!」
ノアは走りだす。徐々に加速し、マスラオウの目の前へ。しかし直前で速度を落としてしまう。そこを見逃すほどマスラオウは甘くはない。すぐに巨大な拳が飛んでくる。
が、それは空をきる。天進流歩法「
地面にマスラオウの殴打が当たったせいで砂埃が舞っている。
「後ろだよ。」
即座にマスラオウが振り向き、拳を構えるとそこには同じように拳を構えているノアがいる。
(俺はマスラオウよりも闘気を練るのが遅い。だから背後に回る!もっと濃く。もっともっともっともっともっともっと!)
突然だが、闘気には色がある。一定の高密度以上に練られた闘気は色を帯びるのだ。だがその域に至る者は多くはないので、知っている人間は限られている。
マスラオウの腕には雄々しい緋色の光が宿る。この一撃でノアを倒すという意思の表れだろう。
対してノアの腕に宿るのは全てを呑み込むような純黒。それを纏っているノア自身はその事を気に留めてもいない。マスラオウを倒すことだけに意識を向けているのだ。
「天進流奥義——」
それは星をも砕き天へと進む意志。拳に闘気を溜め、捻った腰を使って威力を加算する。
その技の名は—
「星砕き」
そして2人の拳が激突する。
今までの拳戟を遥かに超える威力の相拳は観客席まで届くほどの衝撃波を生み出し、辺りは砂埃で様子が確認できなくなる。
果たしてその勝者は———
砂埃が収まるとそこに立っていたのはノアだった。それが視認できるようになるとこれまでよりも格段に大きな歓声が上がる。満身創痍の状態でマスラオウに目を向ける。
地に横たわったマスラオウはノアに称賛を送る。
「流石だな...。まさかこの俺が負けるとは..。」
「ありがとよ。それでも危なかったけどな。あれがなきゃあ負けてた。」
ピロン!
そんな時システム音がノアの脳内に響く。
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条件を満たしました。個体名 マスラオウのスキルをコピーします。
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戦闘シーンってむずい......!
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